「はーるやさん」

日付も変わる頃に玄関の扉が開く音がした。合鍵を使って入ってきたのはういで、相変わらず可愛らしい人形の様な服に高い位置で結ばれた左右の髪を揺らしながら、隣に座って俺の腕に両腕を絡ませて擦り寄ってきた。

持っていた酒を零さないように、机において痛がらない様にゆっくり両方の髪ゴムを解くと、長い艶やかな髪が胸下辺りまで下りる。頭を撫でるとういは短くため息をついた。

「疲れた」
「最近毎日テレビで見るな」
「お陰様で忙しい毎日を送っております」

腕を解放され、ういは履いていた膝上まである長い靴下を脱いだ。白くて細い足が露わになりつい目を逸らしてしまった。洗濯機に入れてくるついでにシャワー浴びてくるねとリビングから出て行くういの後ろ姿はやはりどこか疲れ気味だ。

彼女との出会いはういが前にいた事務所の麻薬事件の時だった。社長が麻薬に手を出しており、その件で粟楠会が乗り込んだ。所属しているタレントを調べている最中に彼女に出会い、お互いがどこか気にしあっていて付き合う事になった。

風呂から上がる音が聞こえた。しばらくしてドライヤーの音が止みリビングに戻ってきたういは置きっぱなしにしてあるピンクのパーカーワンピースに着替えている。そのまま冷蔵庫から缶チューハイを取り出してまた俺の隣に座った。プルトップを開け、一気に酒をあおる姿は普段の可愛らしいアイドルみたいなキャラの芸能人、上杉ういのイメージからはかけ離れている。

「ファンが見たらガッカリしそうな光景だな」
「芸能人も疲れる人間なのですー」

そう笑いながら言ったういは缶を机に置き、鬱陶しそうに髪を高めの位置で一つにくくる。現われる白くて綺麗なうなじ。さっきから誘っているのかと思ってしまうではないか。深く座り直したういは携帯をいじり始めた。恐らく仕事関係の事をしているのだろう。携帯画面を見ながらういはそういえばねと口を開いた。

「今度ドラマに出る事になったからますます会えなくなっちゃう」
「そうか」
「春也さんってさ大人だよね」

どういう意味なのだろう。年齢も年齢だし落ち着いてるねという意味なのだろうか。忙しく指を動かしているういは続ける。

「恋人としばらく会えないとか普通寂しいなとかなるじゃん」

理解ができた。物分りがいいと言いたいのだと。しかし、彼女の仕事は不規則で忙しければ忙しいほど売れていて人気がある証拠。きっとファンや男性芸能人に嫉妬もしないのか? などの意味も含まれていそうだ。そうやって考えないこともないがそれは彼女と付き合う際に俺なりに納得をしているのだから今更そんな事を思っても仕方ないのだ。

「寂しいが、仕方の無いことだろ。それにこんな大の大人が年下の恋人に嫌だと駄々をこねる方が醜いと思うが」
「それはそうなんだけど。たまには寂しいとか春也さんの本音が聞きたいなって思っただけだよ」

好きな女の前ではカッコつけたいと思うのは男ならみんな思うことではないだろうか。けれどたまには彼女みたいにイメージを守らなくてもいいのかもしれない。ういの腕を引き背中に腕を回すと春也さん? と急な行動に驚いている声が聞こえた。

「会える回数が減るなら会える時にたっぷり愛してやらないとな」

そう言うとういの耳が真っ赤に染まっていく。その様子が可愛くて耳を甘噛みするとういの体が反応した。

「これから寂しい思いをさせれるのだろう? だったら散々付き合ってもらわないと割に合わない」

耳、頬、唇とキスを落とすと春也さん、好きだよと呟くうい。寂しさも嫉妬もういのその一言で帳消しになる俺は単純できっとういが思っている俺とは程遠い大人なのだろう。



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