「最近、組織の事を調べてる小鼠がいるみたいだな」
「そうなんですね。どんな奴なのかは目星はつけてるんですか?」
「そこそこ腕利きの情報屋らしい。俺達の情報を売り捌こうなんていい根性してんじゃねぇか」

助手席にいるジンからそんな話しを振られた。思い当たる人物なんて1人しか居なくて、どうしたものかと悩まざるえなくなってしまった。彼女は民間人。どんな事があろうと公安である以上見過ごすわけにはいかない。

「どうするんですか? 見つけ次第殺せと?」
「そうだな。目障りなのはさっさと居なくなった方がいいからな」

目的地に到着し、ジンを降ろしまた車を発進させた。ういには目の前で連絡先を消されてしまった。こちらから連絡を取ろうにももう出てくれないかもしれない。信号待ちの間、ういの連絡先を画面に映す。躊躇している場合でないのはわかっているが、俺も1人の人間。一応仕事仲間だったとはいえ泣き顔を見てしまったからどう顔を合わせていいかわからなかった。信号が青に変わり、視線を前に戻すと道の脇に古びた喫茶店が目に入る。そうだ、あの喫茶店で待っていればういに会えるのではないか。車を方向転換させ喫茶店へと走らせた。

相変わらずこじんまりとした喫茶店。扉を開くとマスターが一瞬顔を歪ませたがすぐにいらっしゃいませと接客対応に戻り、カウンターへと案内させられた。コーヒーを注文して辺りに豆の香りが漂う。少しして挽きたてのコーヒーが目の前に出てきた。

「あの……」
「お客さんも酷い人だねぇ。あの日ういちゃん飲めもしないコーヒー頼んで一気に飲みほして帰っちゃったんだから。自分の家族が殺された時と同じ事してたよ」

ういを傷つけてしまった。でも、時間は巻き戻せないのだ。

「それでも俺はういに会わないといけないんです。次は彼女が殺られてしまう」
「僕としては守って欲しいって頼みたいところだけどういちゃんは嫌がるだろうねぇ。それどころか家族の所に逝けるとさえ思ってしまいそうだ」

ういはずっと家族の理不尽な死を背負って生きてきた。この世を憎んでいるくらいならそんな考えに至ってしまってもしょうがないのかもしれない。

「復讐するには相手が大きすぎる。泣き寝入りするななんて間違っても言わないですが、ここで彼女が亡くなってしまっては元も子もないんです。俺が必ず組織を潰すと約束するので、もしういがここに来たら連絡をもらえませんか?」

名刺を渡し受け取ってもらえたことに一先ず安心をしているとマスターが口を開いた。

「だ、そうだよ。出てくる出てこないはういちゃんの自由にするといいよ。僕はういちゃんに死んで欲しくないからこの人に協力するからね、だから出てこない時は新しい場所探すんだよ」

その言葉に立ち上がり奥に行こうとする俺をマスターがあなたから行くのは止めなさいと止められてしまった。どちらにしろ出入口はひとつ。閉店まで粘ってしまえばいずれは会えてしまうのだ。ういがマスターに頼んで今日はここにいると言わない限り。

すると、奥から物音がしてういが出てきた。俺は立ち上がりういと呼びかけたが、俺の事など見えてない様に横を通り過ぎレジに伝票を出していた。

「ういちゃん、そろそろいつものメニューに戻したら? 糖分足りてなくて顔色悪いよ。どうせちゃんとご飯も食べずに仕事してるんでしょ? 最近ういちゃんのお客さんがよく出入りしてるから」
「んー、でも今は仕事してないと落ち着かないですし。落ち着いたらちゃんとご飯も食べますよ」
「でも、しっかり食べてないと大きな組織に狙われた時逃げられないよ?」
「マスターがさっき言ってたじゃないですか。死んだら父さんと母さんに会えますから」

そう言ったういの顔は力なく笑っている。普通にお会計を済ませたういはやはり俺の事なんて気にもしないで、また来ますと店を出ていった。店の飾りが音をたてて扉が閉まるのが遠くに響いているように聞こえる。ういが座っていた場所を片付けにマスターが奥へと消えて、コーヒーカップを手に戻ってくる。

「ういちゃんは嫌なんだね。遠くから守ってやる事は出来ないのかい? 彼女まだ17だ。強がってるけど何も出来ない子どもだ」

きっと上手く組織を誘導すればそれは可能だ。だが、ういの了承を得ないままそれをしたとしてもきっと同じ事が起きてしまう。きちんと話をした上で守らなければ、組織から逃げ切ることは出来ない。俺が一方的に守った所で何も解決はしないのだ。

カウンターにお代を置いて店を飛び出した。角を曲がろうとしていたういを追いかけて腕を掴んだ。力いっぱい振り切ろうとしてくるういを抑える為に背中に腕を回して抱きとめる。

「セクハラ! 訴える! 痴漢!」
「何とでも言え。うい話しを聞いて欲しい」
「嫌、嫌! 何も聞きたくない! 守ってもらいたくなんかない! 自分で何とかするから離して!」

強がりながらも顔はあの日と同じで涙で濡れていた。俺から離れようと必死に暴れるういを落ち着けたくて、離すけど逃げるなよと一か八か腕を離すとういはその場に崩れ落ちた。

「ねぇ、私どうすればいいの? 頼りたくないのに頼るしかないなんて嫌。なら、死んだ方がマシ。父さんと母さんに会いたい……」
「…………うい」

泣き続きけているういを支えるように立たすともう抵抗はして来なかった。1度喫茶店に戻るとマスターは奥へどうぞとそれ以外何も聞いて来なかった。奥へと入りういを座らせて向かいに座る。泣き止んではいないがいつ逃げられるかわからない。俺は無理矢理だが話を進めた。

「今、組織はういの事を探し出そうとしてる。俺が組織を誘導するからういは俺が準備する所に移り住んで欲しい」
「思い出の場所まで離れなくちゃいけないの?」
「辛いだろうが、それしか逃げのびる術はない。必ず俺が組織を潰す。だからういはもう組織の事からは手を引いて欲しい」
「…………嫌」
「うい」

嫌なの、と真っ直ぐ俺の目を見たうい。どう説得をしようと口を噤んでしまうとういの方からでもねと言葉が続いた。

「どう組織を潰そうと糸口を探しても私は何も出来ないの。結局そんな力なんてないって思い知るだけ。それに組織から狙われてるって聞いた時何もかもバレてて失敗してたんだって思った。それなら両親に会える道を選びたいって思った。でも、降谷さんもマスターもお客様も私に生きていてよって言うの。自分じゃ結局何も出来ないってわかったから……納得してないとこもあるけど私、降谷さんの指示に従うよ」

そう言ったういはやっぱり泣いていてその顔を見て必ず組織を潰してやると改めて決意をし直した。

その後すぐに遠くの地へ引っ越しをさせた。組織には俺が調べたが彼女は元々有力な情報は得られていなく手を引いたと告げると少し不信にはされたが、組織に損害が無いならとあっさりとこの件に関しては終わりを迎えてくれた。その事をういに電話で報告するとそっかとそれだけ返ってきた。

「ねぇ、降谷さん」
「何だ」
「勝手に降谷さんの事責めてごめんなさい。あと、……助けてくれてありがとうございます」
「……ああ。俺も少し関わっていたのは事実だからこちらこそごめん」
「降谷さんの事も調べてたので少し事情は知ってます。降谷さんも降谷さんでいろいろあるみたいですしこれ以上追求はもうしないです。そうそう、私、こっちでも情報屋続けます。いつか私の活躍がそっちにいる降谷さんに届くほど。そして、降谷さんに組織の情報買わせてみせますから」
「それは楽しみしてるよ」

待っててくださいねと明るい声とともに電話が切れた。きっと彼女はこれからもっともっと強くなるだろう。俺もういに追い抜かれないようにまだまだ頑張らねばと今日の仕事に向かうのだ。



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