病院の事は一旦おじさんに任せて私は降谷さんの事を調べにかかった。ガードが固い人だとは思っていたけど中々思うように情報が集まらなかった。しかし、今まで追ってきた組織の情報から彼が組織に潜入中でコードネームはバーボンという名前でいるらしいという確証の取れない情報は得られた。私の家族の事を知っているのかもわからずじまいだ。

数日して、おじさんから連絡が入ったのでいつもの喫茶店の場所を教えて、私も向かう。向かいながらどう降谷さんから私の父さんの事を引き出そうか考えていた。あれから私の仕事が進んでいなかったので、暫く降谷さんに連絡はいれていない。

喫茶店に入って、マスターに今日は人が来る事を伝えると珍しく注文は? と呼び止められた。

「いつものでいいですよ」
「そうかい。じゃあ、今日はトーストにイチゴジャムでも付けてあげるよ」
「誤発注でもしました?」

そう言うとマスターは眉間に皺を寄せて少し怖い顔になった。いきなりどうしたんだ。マスター? と不思議げに聞くといつもの優しい笑顔に戻ってういちゃんの顔真似だよと言われてしまった。私、そんな顔してたのか……

「いろいろ悩んで疲れた頭には甘いものだよ。ココアの生クリームも増し増しにしておくよ」
「ありがとうございます」

いつもの定位置に座ってイチゴジャム付きのトーストを食べながら、また降谷さんについて考えているとおじさんがやってきた。

「時間かかっちゃってごめんね」
「いや、全然大丈夫です。こんな事頼んですみません」
「いえいえ。はい、これ頼まれてたやつね」

茶封筒を開けているとホットティーと伝票を持ったマスターがやってきて、机に置くとごゆっくりどうぞとおじさんに挨拶をして、厨房に戻って行った。茶封筒の中身にはしっかりと相田の個人情報、棚卸しで使われた紙が入っていた。おじさんはデキャンタからカップにホットティーを注ぎながら安堵の表情を浮かべる。

「これを公安の人に渡せば一件落着だね」
「……そうですね」
「でも、これ僕が通報してちょっといい事した感も味わってみたかったなぁ」

…………それだ。これを降谷さんに言わずに直接相田に接触してバーボンの事は確かなのか聞いてしまえばいいのだ。相田がバーボンの事を知っているのかは知らないが一か八かだ。

「ういちゃん? 何かすごく悪いこと思いついた顔してるけど? どうしたの?」
「いいよ。おじさん通報して。これだけ証拠あって私の撮った写メがあれば信憑性あるよ。通報した時に一緒に降谷さんの名前も出せばいいですし」
「え? 公安の人の許可無しにそんな事していいのかい?」
「私は私でやりたい事が出来ちゃったので。今からかけちゃいます?」
「ええ、何か緊張するなぁ」

そう言いながら早速警察に連絡を入れ始めたおじさん。しっかりと降谷さんの名前を出したのを確認する。さて、これで降谷さんの事を知る事が出来るかもしれない。電話を切ったおじさんはひとまず警察に行く事になった。私も先に病院に行って警察を待つとしよう。ホットココアもトーストも食べ終え、伝票をろくに見もしないで、900円をトレイに出すとういちゃん、50円足りないよと言われてしまい、慌てて伝票を確認する。

「生クリーム増し増しとイチゴジャムはサービスだと思ってたんですけど」
「そんな事一言も言ってないだろ。怪しい仕事してるういちゃんの場所を作ってるのは誰だと思ってるんだい?」
「マスター、いつもありがとうございます」
「いえいえ。それより今から真相探りに行くんだろ。糖分しっかり取ったんだからシャキっとしなさいよ」
「はい、行ってきます」

マスターに気力をもらって、私は病院へと向かった。降谷さんは私の敵なのか味方なのか。ようやく組織に介入出来ると思ったのに。どうしても父さんに関わった人とは手を組んでやっていける自信はない。どうか、悪くはない結末であってくれと願わずにはいられなかった。



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