*R18気味

買い物の時以外は外に出してもらえない生活が2ヶ月ほど続いたのだろうか。どんどん束縛という言葉では温いほどの異常な行動は増していくばかりだった。

ある夜、寝室で本を読んでいると碧君にリビングに来るように言われて行くと食卓の机の上には1枚の紙が置いてあった。座ってと椅子を引かれ座ると碧君も向かい側に座った。紙には婚姻届の文字。

「うい、結婚しよう。そうすればういの全ての面倒を見てやれるからな」
「碧君、私今のままでも充分幸せだよ」

結婚をしてしまったら本当に何かも奪われ、制限がつきそうで何とか現状維持出来ないものかと逃げ道を恐る恐る探ってみた。

「俺ももちろん今のままで幸せだけど、やっぱり夫婦でないと助けられない面も出てくるからな。俺が嫌なんだ」
「碧君」
「ん?」

碧君の考える事がわからなくて涙が溢れてきてしまう。碧君は泣かせるつもりは無かったと立ち上がり私の方へ来て涙を拭いながら頭を撫でてくれる。助けを求められる相手もいなくてどうにか碧君の考えが変わらないかと淡い期待を抱いてはいたが、もうダメなのかもしれない。まだ変わらずに優しい碧君に縋るしかない私にもうどこにも逃げ道は無いのだと思い知らされる。

「結婚したら、どうなるの?」
「俺の最後の我儘を聞いて欲しい。これだけはもうういがどんなに嫌だって言っても聞き入れないから」
「……我儘」
「ああ。最後の我儘。内容は、そこにサインしてからな。狡くてごめんな」

先に謝るなんて。碧君は全てが狡いよ。

「教えてくれないの?」
「教えてもいいけど、その時にういがサインしてくれなかったら俺、それ以上にういに酷いことしそうでもう自分で抑えが効かねぇかもな」

そう自嘲した碧君は、まだまだ色んな想いを押し殺してそうで、苦しそうに聞こえた。

「どっちにしても私はもう碧君から離れるのは許されないんだね」
「きっとどこに行かれても見つけて何度でも連れ戻すだろうな。どんな手段を使っても」

その言葉とともにキツく抱きしめられる。ああ、どんどん息が苦しくなっていくだけだ。サインをしてしまって、私の全てを碧君にあげてしまった方がもう楽になれるのかもしれない。ゆっくりと碧君の胸を押し返して碧君の赤い目をじっと見つめた。

「私、碧君と結婚する」

嬉しそうに笑った赤い瞳。久々に碧君の笑顔を見た気がした。好きな人が笑ってくれるとこんなに嬉しくなるものだっけ。不思議なくらい私も嬉しくなってしまった。ペンを持たされ名前を書くと碧君は大事そうにファイルに入れて明日出してくるなと言った。

「サインしたから碧君の最後の我儘、聞いていい?」
「ああ。……うい、もうこの家から出るな。欲しいものも全部買ってやる。家の中でやれる事なら全部叶えてやる。だからもう家から出るな」

やっぱり全部奪われてしまうんだ。家の中でしか自由はもう無い。そういう約束をしてしまったんだ。

「私、もうそれに嫌って言っても碧君は聞いてくれないんだよね」
「…………ごめんな。もうういを他のやつの
目に晒したくないんだ」
「碧君、言うことは聞くよ。けど、やっぱりその考え自体はわからないや」

聞いてくれるならそれでいいとまた抱きしめられる。…………もう碧君の領域から出る事は一切許されない。覚悟を決めて私は背中に腕を回してキツく抱きしめ返した。涙はまた止まらなくなってしまって、碧君は子どもあやす様に私の背中をトントン叩きながら謝り続けていた。



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