「上杉くん、この資料とてもよかったよ」
「ありがとうございます!」

社会人3年目。苦しいことの多かった高校生活を乗り越えた。もちろん家庭事情で大学には進めなかったけど、ちゃんと就職も決めて1年で貯金をして、家を出た。両親は嬉々として離婚した。それで良かったんだ。今の私は仕事が恋人状態だけれでも、自分で自分の生活をしていることにとても満足をしていた。

高校を卒業して就職する人はこのご時世なかなかいないもので、必死に仕事をしていた。それでもやはり高杉先生の事は頭から離れられなかった。1度あのハルの店主に会いに行ったが高杉先生から釘を刺されているらしく連絡先は教えてもらえなかった。待っていたら来るかもしれないが社会人になってしまえば、そんな暇もなく先生には会えず終いのまま3年も時が過ぎてしまった。

ある日、社内の女子会と称して飲み会を開いていたら最近ホストクラブにハマっているという先輩がみんなで行かない? と言い出した。みんなは興味があるのか行きたいですと結構ノリノリだ。

「ういも行こうよ」

仲のいい同僚にも言われ、先輩の誘いだし人付き合いも大事だよねとも思いながら女5人全員参加でホストクラブへと夜の街へと繰り出した。

煌びやかな繁華街。入口付近では昔の私みたいな女の子がチラホラといた。どこか懐かしみながら、なんとなく高杉先生がいないかを探している自分がいた。

目当てのホストクラブにつき席に案内される。ホストクラブ自体は初めての経験だ。先輩のお気に入りの人を指名して、あとは空いている人が付いてくれるとのことらしい。先輩の指名した人ともに2人一緒に来てくれた1人を見て驚いた。紫のスーツに眼帯。紛うことなき高杉先生だった。先生は私がスーツ姿だからわかっていないのかそれとも私だとわかっていないのか反応は何も無かったが運のいいことに隣に座った。

「でも、シンが出てるなんて珍しいね? 最近全然いなかったのに」
「最近は他の店舗で忙しくてな」

話の流れを聞いていると養護教諭は辞めて、ホストのお店を経営している側に回っているみたいだ。やはり、あの事件がきっかけで教育現場にいられなくなってしまったのかな。

やはり私だとわかっていないのか先生はホストの接客態度だった。それか顔に出ていないだけなのか。疑問に思っていると店内が一層盛り上がった。何事かとソファ越しにフロアを見るとシャンパンタワーが始まるようだ。そこに注目が集まった途端腕を引かれた。

「上杉、だよな?」
「わかってたんですか?」
「隠すので精一杯。これ俺の連絡先、あとで連絡しろ」

ホストクラブとの名刺とは違った紙切れを隠されるように私の鞄の中にいれて、シャンパンタワーのコールの波に入っていった。

結構お酒を呑んだところで時間が来てチェックをした。他のみんなも満足をしたようで、楽しそうに帰って行った。タクシーで帰って行くみんなを他所に私はさっきもらった小さい紙切れを手に電話をかけた。数回のコール音のあとはいと低い男の人の声。

「上杉です。高杉先生の携帯ですか?」
「もう先生じゃない。今どこにいる?」
「駅前です」
「わかった。待ってろ」

少しすると駆け足気味の先生が向こうから見えたので、手を振る。すると駆け寄ってきた高杉先生にいきなり抱きしめられた。

「先生?」
「ずっと心配だったんだ」

そう言って両肩に手を添えられて、全身を見渡される。なんかすごく恥ずかしい。

「社会人になったんだな」
「はい。グレてどうしようもないやつになってたらどうしようって思ってました?」
「少しな」

頑張ったんですよと笑うと先生も笑ってくれた。

「今日この後はまぁ、帰るだけだよな。明日は?」
「明日ですか? 明日はお休みですけど」
「なら、俺ん家来ないか?」
「えっ、私あの時と違って帰る家ちゃんとあるんですけど」
「嫌ならいいが」
「嫌では無いですけど……」

なら、決まりなとどこかに電話をした先生は、駅前にいると伝えると電話を切った。しばらくすると車が1台止まり運転手の人が扉を開けてくれた。先生と一緒に後部座席に乗り込むと車は発進した。

「先生どれだけ偉くなってるんですか? ただのホストクラブのオーナーじゃ」
「先生をやめろ。高杉な。ホストは遊び。養護教諭辞めたその後親父の会社継いで本職はビジネスホテルのオーナー。まぁ、都内に数件だけの小さい会社だがな」
「すみません、高杉さん。それでもすごいじゃないですか、びっくりです。やっぱりホストはなんとなく?」
「ああ、なんとなくだ」

変わっていないなとどこか嬉しくなりながらもあの時よりも階層のあるマンションの前に到着。エントランスのセキュリティーを解除して、上っていくエレベーターの階数はやっぱり最上階。

部屋に着くとソファに座らされ、水でいいかと言われる。お互い結構飲んでいたしそれでいいですと答えるとグラスに注がれた水が出てきた。喉も乾いていたので、半分くらい飲んで、コースターに置き直した。

「ところで、なんで私の事家に呼んだんですか?」
「誰にも聞かれたく無かったから」
「何をですか?」
「俺の好きだ、って告白」

私の目を真っ直ぐ見て言われた一言。驚きで言葉が出てこない。

「ずっと気になってたのは確かだったんだ。でも、その時俺は学校側の立場にいて上杉は生徒だったし、ホストだし援交してるし。そんな状況で告白しても悪化するだろ。だから、今日見たときに連絡先を渡して賭けたんだ」
「じゃあ、私が連絡してなかったら?」
「それまでだったって諦めてたよ。でも電話してきてくれた。だからもう離さねぇ」

そう言ってさっき駅前で抱き着かれた時よりも力強く回ってきた腕に本当なんだとわかった。その前に私も言いたいことがあると腕を離してもらった。

「今だけ先生って呼んでいいですか?」

先生は小さく頷いた。

「高杉先生、私、学校に残された事ずっと嫌だった。優しい先生が辞めて何もかも庇われて残されたのが。すごくあの後苦しかった。けど卒業して普通に就職出来て、また先生に会えた。私あの時先生に戦えって言われた気がして、頑張ったんです。……高杉先生ありがとう」

途中から涙が止まらなくなって、先生に抱き着いてしまった。けれど、まだちゃんと返事をしないといけないことがあると先生から離れて、涙を拭った。

「私も高杉さんが好きです。まだまだ子どもな私ですけど、よろしくお願いします」
「うい」

どちらともなく抱き合ってキスを交わした。遠い遠い遠回りをいっぱいしたけれど、ここに行き着く為のものだったと思えばそれもまた悪くないと思える程には大人にはなれたのかもしれない。大好きな高杉さんとこれからは楽しい未来を作っていきたいとそう強く思った。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -