いつもの場所と場所を変えて今日も夜の繁華街へと繰り出す。新しいところだと、やはりなかなか相手は捕まらなくて、今日はカラオケか漫喫だなと駅に向かおうとした時だった。

「ちょっといいか」

肩を叩かれて後ろから低い声で声をかけられた。どこかで聞いたような声だが声を聞く限り若そうな人だしたまにはお兄さん相手もいいなと振り返って驚愕した。最初に目がいったのが眼帯。

「今日はもう大人しく帰ろうとしてたところなので、失礼します」

一刻も早くその場を離れたくてお辞儀をして足早に去ろうとしたけど、腕を掴まれてしまった。先生が何を考えているのかさっぱりわからない。

「先生、何ですか」
「ここで先生はやめろ」
「何の用ですか?」

男の人の力には適わないので、最初から抵抗するのは諦めていた。それがわかったのか腕はすぐに離してもらえた。

「気持ち悪いおっさんよりイケメンのお兄さんのが上杉も嬉しいだろ」
「自分でイケメン言うのやめてもらえますか。嫌味に聞こえないのがとてつもなく不快です。それに顔見知りとする気はないですよ」
「手を出すとは言ってないだろ。着いてこい。飯と寝床くらい用意してやる」

そう言われてしまうと私には従うという選択肢しかない訳で。素直に着いていくと繁華街近くのスーパーに寄って、食材を買い着いたのは先生の住むマンションだった。

「イケメンのお兄さんの相手出来るのは嬉しいんですけど、家に連れ込むのはどうかと思います」
「別に嫌なら大好きなお家に帰ってもいいんだぞ」
「先生ってほんと嫌味好きですよね。……ありがたくお邪魔させていただきます」

エレベーターに乗り先生が押したボタンの階数は最上階。やっぱホストってすごい。いや、養護教諭のはずなんだけどなぁ。エレベーターが止まり、家へと入る。ひとり暮らしには余るような部屋数にだだっ広いリビング。革張りの黒いソファ。豪華なお部屋だ。食材を冷蔵庫にしまったあと先生はちょっと待ってろと別の部屋に消えていった。その間、部屋を見渡す。どこか生活感のない部屋だなと思う。殺風景ともまた違うんだけど。そんな事を思っているとリビングの扉が開いた。スウェット姿になっている先生の手にはトレーナーが1枚。

「上杉も着替えろ」
「別に私はこのままでいいですよ」
「自分の学校の制服姿の奴がいると何か嫌だろ」
「しかも自分の委員の委員長ですしね」

トレーナーを投げつけられて、早く着替えろと言われキッチンへと消えていく。キッチンの所からソファの所は見えないだろうとその場で着替える。トレーナーは男物で膝が隠れるくらいの大きさでワンピースとして丁度いいくらいだった。先生、着替えましたよとキッチンを覗きにいくと、サイズ大きくてちょうど良かったろと笑った。

「てっきり彼女さんの服渡されたのかと思いました」
「はぁ? 彼女なんかここ何年かいねぇよ」
「へぇ、意外ですねぇ」

そんな会話をしつつも先生の手元ではテキパキと料理が出来上がっていく。何か手伝えそうな事はないか聞くと箸とか取り皿を準備してくれと言われたので、キッチンの後ろにある食器棚から箸と取り皿を取り出して机に並べた。先生も一通り作り終えたのか次々と料理が並べられ片手には缶ビール。

「……人の作ったご飯食べるのいつぶりだろう」
「いつから家に帰ってないんだ」
「んー、2年くらいですかね?」
「ずっと援交生活してんのか?」
「そんな気力ないですって。同じ様な仲間の家に泊まったりとかですよ。そんな毎日おじさんの相手してる訳ないじゃないですか」

目の前の卵焼きを口に運ぶ。意外と甘めで作るんだな。

「何で、そんな生活してるんだよ」
「それは個人的な興味としてですか? 先生としてですか?」
「…………個人的な興味だが」
「何ですか今の間。まぁ、いいですよ。両親、仮面夫婦なんですよ。お互い他の人がいるんです。家にほとんどいないし私にももう興味はない。けど、今離婚すると私の事で面倒臭いから早く成人しろって理不尽に怒られるんです」
「大変だな」
「いや、別に。学校には行かせてもらえてるし干渉されないから自由でいいですよ」
「ポジティブな捉え方だな」

そう言った先生は苦い顔をした。ただ話しを聞いてくれた先生はとてもいい人に思えた。大抵の人はだからって援交はないだろとか好き勝手言ってくる人ばっかだったから。私の話をしたから先生の話を聞いていいだろうと、何で先生はホストをしてるんですか? とポテトサラダを突っつく。ベーコンカリカリだ。

「そうだなぁ。なんとなくだな」
「なんとなく……。養護教諭嫌なんですか?」
「嫌ではない。むしろ好きなくらいだ。生徒達と関わるの楽しいしな」
「先生モテモテですしね」
「裏の顔がホストってのもミステリアスでいいだろ」
「確かに先生のファンならカッコイイってなりそう。私達女子高生は悲しい事にそういうのに憧れちゃうんですよ」
「上杉も女子高生だろ」
「普通の女子高生と私の感覚が一緒だって本気で思ってます?」
「すまない」

しかし、なんとなくでホストをしちゃうのか。まぁ、自分でイケメンのお兄さんとか言っちゃうくらいだからホストの方が天職なんじゃないかと思ってしまう。

「それにしても先生の料理美味しいですね。どれも手が込んでて。こんなんじゃ彼女出来ないですね」
「うるせぇよ。ひとり暮らし長かったら何でも1人で出来るようになるだろ。それだ、それ」
「大人も大変ですね」
「あと、先生はやめろ。高杉って呼べ」
「高杉さん?」

それでいいと頭をポンポン叩かれた。そろそろ風呂の準備するかと立ち上がった高杉さんはリビングから消えていった。しばらくすると戻ってきて本日4本目の缶ビールを手にする。

「よく飲みますね」
「明日は休みだしな」
「そうなんですよね。はぁ、土日新しいとこで人見つかるかな」
「ここにいればいいだろ」
「え?」
「別に俺は構わないからここにいろ」

そう迷いなく言われた。そう言われてしまうと甘えたくなってしまうじゃないか。

「それは、悪いですよ」
「当てはあるのか?」
「仲間あたりに連絡しますよ」
「ここは嫌か?」
「嫌じゃないですけど」
「じゃあ、いいじゃねぇか」

あっさりと決まってしまった。よくよく考えれば生徒と教師なのだから問題はありまくりなのだが、そんな事は頭には無くそれなりに単純な私は楽ができたと思ってしまった。一部始終を学校の関係者に見られていたと知らずに。



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