気持ちいいくらいの風で木々がざわめいている夜。鳥居の上で尻尾のお手入れをしていると派手な着物の男が1人現れた。

「どう見ても神社にお参りっていうより丑の刻参りが似合いそうだなぁ」

そう言ったのが聞こえたのか鳥居の上を見上げてきた。そういえば、最近私の事が見えるヤツらが居ることを忘れていた。彼もその1人らしい。

「天人か?」
「神様だよ」
「そんな口の悪い神がいるかよ」
「ここにいるだろうが」

手入れにも飽きてきた頃だし、面白そうな奴が来たからお話しでもするかと鳥居から飛び降りて、裾を引っ張って石段に誘導し隣に座るようにさせた。片目は包帯で巻かれている男は私の存在に不思議そうにする素振りも見せずに素直に着いてきてくれた。

「神社に用がある様には見えねぇが、何しに来たんだ」
「ただの夜の散歩だ」
「ふーん」
「お前は? 本当に神なのか?」
「ういって呼べ。そうだ、本当に神様だ」
「神ねぇ、信じちゃいねぇが今日くらい信じてやるのもおもしろいかもな」

そう言って男は不敵に笑った。

「今日だけ信じてくれるついでに願い事を聞いてやるよ?」
「ねぇな。あっても自分で叶えちまうよ」
「それでいいんだよ。こういうのはきっかけに過ぎねぇからな」

結構話しが合う奴だな。ただ、こいつの場合唯ならぬ雰囲気を醸し出しているからとんでもない野望を抱えていそうだ。

「神ってやつでも願い事はあるのか?」

突然の思いもよらぬ質問に耳がピンッと反応してしまった。その様子に男が低く笑う。

「そうだなぁ。……じいちゃん、いや神主が神社を畳んだあと平穏に暮らしてくれることだな」
「畳む? ここ無くなるのか?」
「ああ」
「ういはどうすんだ?」

前にもこんな質問をされた気がする。……そうだ、あの銀髪の天パだ。思考が似ている奴はいるものだなぁ。

「私は近所の適当な神社に住み着くよ」
「畳んだあとじいさんと一緒にいてはいけねぇのか?」
「神が1人の人間に執着する事は許されねぇからな。これでも一応ルールは守るようにしてんだ」
「既に執着してるじゃねぇか」

そう言っていきなり声を上げて笑いだした男はそんな耳を垂れ下げながら言われてもなと言った。

「涙目のやつが何言ってんだ」
「情って奴だよ。江戸っ子によくあるやつだ」
「いいんじゃねぇか。じいさんの事思う存分思ってやれば」
「……言ってくれるじゃねぇか」

また愉しそうに笑った男はそろそろ行くわと立ち上がって、石畳をゆっくり歩いていく。頬に伝う何かを拭いながら去っていくその背中を呆然と見つめる事しか出来なかった。



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