色んな人達の願いを聞いてきた。あの人と付き合いたい。あの学校に受かりたい。病気を治して欲しい。一攫千金。世界征服。……平穏に生きてきたい。
人間は大変らしい。まぁ、言うて私にそんな願いを叶える力は無いのだけれど。結局自分でみんな解決をして、成長し自分なりの道を見つけているのだ。神様なんてきっかけの1つ過ぎない。
「ういさんよぉ。この神社潰れちまうかもしれない」
神主のじいちゃんは私の事をういと呼んだ。身寄りもなく1人で神社を切り盛りしてきた。跡取りもいないし、このままいけば私の居場所も無くなってしまう。ずっとここにいたから寂しくはあるけれども、流行らない神社になってしまったし、所々崩れ落ちそうな部分もあるから取り壊しの話はちょっと前から出ていた。
「ういさんも、早く別の場所見つけるんだよ」
「じいちゃん、諦めちゃうのかよ」
そう言っても私の声や姿は見えないし聞こえてないのだけれど。じいちゃんが弱音を吐くことはまず無いので、もう抵抗を続けても無駄だということなのか。
私には弱音を吐くけれども人が来ると怒って追い返しているし、人に言われると抵抗をしたくなる子どもみたいだ。あとは、じいちゃんが決心をして判を押すだけなのだからみんな黙っていてあげればいいのに。
「ここは渡さん!! 帰れ! 帰れ!」
「取り壊しは決まってるんだ。また来るからな」
今日もまた業者との攻防。そのやりとりを姿は見えていないのに影から見守る。近所の神社の神様にそろそろ取り入っとくかぁ。そんな事を考えながらお気に入りの鳥居の上でお昼寝を始める。
前はみんなの願いが子守唄だったのに、やけに騒がしい子守唄になってしまったなと時の流れを感じながらウトウトと微睡むここ最近なのだ。