いつも見たいに左馬刻くんの家に遊びに来て、大きなソファに横並びでお酒を飲んでいたら、いきなり後ろから抱きしめられた。一体これはどういう状況なんだ。
「左馬刻くん? どうしたの?」
反応は無いけど、腕の力は強まった。苦しいんだけど。……酔ってるのかな? けど、左馬刻くんはお酒弱くない方だしなぁ。
「酔ったんだよね? 体調でも悪かった?」
「酔ってねぇよ」
そうですか。そもそも私たちはいきなり抱きついてもいい恋人同士でも無いし、幼馴染ではあるけど、青春漫画のような幼馴染でも無い。本当に訳が分からない。どうしていいかわからず抱きしめられていると、なぁと左馬刻くんが口を開いた。
「好きだ」
「誰を?」
「この状況で聞くか、普通。アホか」
告白をされてすぐに貶された。どうやら私に向けた告白だったようだ。そりゃ、そうか。しかしあのプライド高々な左馬刻様の勇気ある告白の1場面を台無しにしてしまった感は否めないが。……ええ、っていうか好きな人って私なの。
「左馬刻くん、今までそんな素振り無かったよね」
「ういが俺に興味無さすぎるんだよ」
確かに恋愛対象として考えた事は無かった。だって、左馬刻くん結構遊んでるし、MTCを作って有名になっちゃって、遠い存在になりつつあったし。むしろそっちの方が私のことなんか眼中に無いとでさえ思ってたし。さてと、さっさと断ってこの家を出て行くのが吉だ。いきなり男の人になってしまったこの人に何をされるかなんて、わかりたくない。
「左馬刻くん。ごめん、気持ちには」
「好きって言うまで放さねぇ」
振ろうとしたのに、ねじ伏せられてしまった。昔から左馬刻様の我儘に弱いの知ってるからだ。でも、今回ばかりはなぁ。力に適わないとわかってはいながら、身を捩ってみるけどぴくりともしない。
「ねぇ、私の事いつから好きだったの?」
「……最初からだよ」
「い、意外と一途なんだね。でも不特定多数の女の子と遊んでるよね?」
「いつ? 誰が? どこで?」
ドスの効いた低い声。怒らせてしまったか。
「この間も駅で女の子といるの見たよ」
「あっちが勝手に寄ってくるんだよ。鬱陶しくてしょうがねぇ」
今までのは私の勘違いだったのか。ごめんと謝るとわかればいいんだよと更に強まる腕。苦しい通して痛い。愛が重いよ。左馬刻くん。
「左馬刻くん、放して」
「俺の話聞いて無かったのか?」
「じゃあ、せめて力弱めてよ。痛い」
盛大な舌打ちが聞こえたけど、少し体が楽になる。嘘で好きだなんて言ったら流石に失礼だよな。
「私、気持ちには応えられない。ごめん」
「そんな事知らねぇ」
体を無理やり向かい合わせにさせられたと思ったら、重なった唇。下唇を甘噛みされて離れていった。
「最低。ファーストキスだったんですけど」
「良かったな。俺様で」
愉快そうに笑う左馬刻くんを見て思った。きっと私はこの人から離れる事は許されないんだ。
「今、私が好きって言っても信じてくれないでしょ?」
「ああ、だから本気で好きだって思わせてやるから俺のとこに来い」
そのまま手を引かれてまた左馬刻くんの腕の中に戻ってしまった。やり切れない気持ちを抱えたまま私は左馬刻くんの気持ちを受け入れる他なかった。
Inspiration:確かに恋だった