特に連絡先を交換して連絡を取り合っている訳でも無かったので、あの日起こった事も日々の忙しさで忘れていたそんな頃。

そりゃあ、住んでる所は一緒だからどこかでばったり会ってもおかしくは無いのだが。用事を済ませて帰ろうと駅に行くと、見覚えのあるアロハが。

相変わらず手には煙草。携帯を見ながら誰かを待っているようにも見える。道行く人はMTCの碧棺さんだとチラチラと顔を見ていく人も少なくはない。声をかけようか迷っていたら、ふと顔を上げて周りを見渡した碧棺さんと目が合ってしまった。おうと片手を上げてこちらに向かってくるのを無視できるわけもなくお久しぶりですと頭を下げる。

「久しぶりだな。連絡先くらい聞いときゃよかったな」
「え、あぁ、そうですね」
「なぁ、今から暇か? いきなり仕事が無くなって暇してんだよ」

特にこれから用事は無いし、家に帰るのみなので暇といえば暇なのだが。どう答えようかと迷っていると碧棺さんの手が伸びてきて手首を掴まれた。そのまま腕を引かれるまま駅を出て行く。どこに向かってるのかはわからないけれど、とりあえず止まってもらいたくて声をかけた。

「あの」
「何だ? 何も言わねぇから暇なのかと思ったが。予定でもあったか?」
「予定は無いですけど、そのどこ行くんですか?」
「昼飯まだで腹減ってんだよ。ういは?」
「小腹なら空いてますけど、その」

じゃあ、丁度いいなと言葉を遮られ掴んでいた手が離れていく。家に送ってもらった時と変わらず先に歩を進めた碧棺さんの後を少し早足で追う。

「碧棺さん」
「次会った時は名前呼べって言ったの忘れたのか?」
「えっと、左馬刻さん?」

何で疑問形なんだよと言いながらも満足そうに笑った。本当に綺麗な顔してるなぁ。他愛もない話しをしながら左馬刻さんの行きつけだというお店に到着をする。席に着くと慣れたように左馬刻さんはいつものと注文をする。左馬刻さんと同じものにしようとしたけど、それが普通の食事だとお腹に入らなそうなので、おやつという事でパンケーキを頼んだ。しばらくして、定食とパンケーキが運ばれてきた。やっぱり一緒のものにしなくて正解だったな。

パンケーキを食べ終え、化粧を直したくて御手洗に立った間に会計を済ましたらしい。俺が連れてきたから気にすんなと言われ、まだ時間はあるか確認をされる。大丈夫ですよと答えると買い物付き合えと言われそのままショッピングモール、夕飯と左馬刻さんに言われるまま着いて行った。

夕食も終え、外の空気が吸いたいと夜景が綺麗な道沿いを歩く。

「夕飯代もすみません」
「謝んなよ。俺が連れ回しただけだから」

近くの柵に前のめりになって、煙草を吸う左馬刻さん。私も隣に行き、夜景を見渡す。隣を見ると左馬刻さんも夜景を見つめている。本当に絵になる容姿をしているよな。煙草を携帯灰皿に片付けた左馬刻さんは、いきなり私の後頭部に手を回してきた。顔が、近い。

「見惚れてんのか?」

きっと私の顔は真っ赤だろう。顔を逸らしたかったけど、回ってきた手の力が強くて顔を逸らすことが出来ない。低く笑った左馬刻さんは顔真っ赤だぜと手を離してくれた。顔が熱いし、心臓に悪い。この感情を誤魔化したくて今日はデートみたいですねと言うと、そのつもりなんだが? と疑いもなくそう返ってきた。

「えっ、え?」
「逆に何だと思ってたんだよ」
「普通に遊んでるつもりだと」
「鈍いな、ういは」

頭に大きい手が乗る。帰るか、送ると駅に向かおうとしている背中を追った。

Inspiration:確かに恋だった



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