講義に出てはいるもののいつも隣に座っているういがいないから落ち着かない。いつもの様に家に迎えに行くと今日は体調が悪いから休むと言われた。なら、俺も休んで看病をすると言ったが他の人にもう頼んだからいいと言われてしまい引き下がるしかなかった。今頃、誰に看病されているのかと気になって仕方がなかった。

やはり講義に集中が出来なくて、講義室を抜け出してドラッグストアへと足を進め市販薬やら風邪の時でも食べられそうな物を買い込みういの家に行く。インターホンを押すも全くといっていいほど反応が無い。どこか静かすぎる気もしたがちゃんと寝れているのだろうと思い、また仕事が終わってから来ようと踵を返した。

店に出勤をして高杉と土方の姿を見つける。家に呼んだのは2人じゃないのなとか思いながら、はよーと挨拶をするとどこかぎこちなく2人に挨拶を返された。その様子が気になり土方に声をかけみる。

「なんかよそよそしくね?」
「そうか? そういや今日うい大学来てなかったな」
「なんか体調悪いとかで休んでたんだよ。さっきも家寄ったけどなんも反応無かったからまた帰りに寄ろうと思ってる」
「そっとしといてやれよ」
「なんだよ。高杉。好きな女が体調悪いって言ってるのにほっとけねぇよ」

そうかよ、と短く返事が聞こえた。どこか浮かない顔の2人がどことなく気になるがボーイに呼ばれフロアに出る。呼ばれた席にはたまに来てくれる不動産屋の社長の娘さんがいた。挨拶をして席に座り彼氏の愚痴などが始まる。それに愛想良く相槌を打っていると唐突な話題にシフトしていった。

「そういえばボーイの女の子、この間私のパパの所でお家決めてたけど引越ししたの?」
「……何、その話」
「え? ギン聞いてないの? てっきり引越しの手伝いとかしてるのかと」

仕事ということも忘れてしまいそうになりながらも冷静をなんとか保つので精一杯だ。個人情報を聞き出すのは良くない。けれど、情報源はここしか無いかもしれない。慎重にどこに引越しをしたのか聞き出そうと体制を整える。

「別に彼女でも無いしな。どこら辺の物件探してたとかわかる?」
「えー、確かね。関東圏じゃなくて西の方の不動産と連絡とってたかな。それ以上詳しくわ……」
「そっか……。なぁ、今度アフター行こうぜ」
「その代わり引越し先調べろってこと?」
「頼んでいいか……」

それからは上の空だったと思う。とにかく仕事を終わらせて帰宅をした。試しにういの家にも寄ってみたけどやはり人気がなかった。次の日の昼には携帯にういの引越し先がわかったと連絡が入り、すぐさま新幹線に飛び乗り西に向かった。ういの連絡先を携帯で確認しながら、住所を辿ると繁華街から外れたところにある閑静な住宅街のアパートに着いた。表札などはまだ無いが号室も合っている。出てくれないかもしれない。その時はその時か。半ば諦めたような気持ちでチャイムを押すと中から人の気配がした。はーいと聞き慣れた声と共に玄関先に足音が寄ってきたが、覗き穴から俺の姿を確認したのか鍵が一向に空かない。軽くドアをノックする。

「ういだよな? 開けてくれ。これで本当に最後にする」

静かにチェーンと鍵が外れる音がして、ういが中から現れた。なんでここにいるのと顔に書いてある。

「ゲストの不動産屋使ったらバレるって」
「全然知らなかった……。銀ちゃん、あのねここまで来てくれて悪いんだけど」

これで俺も諦めたいから。言葉を遮ってういを思い切り抱きしめる。ういは少し抵抗してきたけど、逃がさないように腕に力を込めると適わないと思ったのか大人しくなった。

「ういがここまでするのはわかった。これで、最後にする。ういが好きだ。隣にいたい」

いつもみたいにかわされることも無く俺の腕の中でじっとしている。ういの表情が気になって顔を覗き込むと目に涙を溜め込んでいて、それはすぐにでもこぼれ落ちそうだった。

「……ごめん。嫌だったよな。こんなとこまで追いかけてくるなよってな」

腕の力を緩めて帰ろうとういから身を引こうとした次の瞬間俺の背中にういの細い腕が回り込んできた。突然のことに次は俺が呆然としてしまう。

「ずっと好きだった。今も変わらず大好きなの。でもね、私は汚いからこんなにも純粋な銀ちゃんの気持ちは受け取れないだから、」
「なんだ、両想いならそんな事関係ない」

全てひっくるめて大好きなんだよとさっきとは比べ物にならないくらいの力でういを抱きとめる。それに比例するようにういは声をあげて泣き始めた。今までごめんさないと謝り続けるういの頭を優しく撫でる。

「俺、隣にいていいんだよな?」

首を縦にふるういがまた愛おしくて、またきつくういを抱きしめた。

「銀ちゃん。大好きだよ」

ずっとずっと聞きたかったその言葉。腕の中にいるういが何よりも現実であることの証明で。昔から望んでいた事が今、目の前にある事に頬が思わず緩んでしまった。

「銀ちゃん、顔緩みすぎ」
「うるせー」

そのまま重ねた唇。やっと、手に入れられた。夢中になって、唇を重ね合わせているとまたういに憎まれ口を叩かれるのだ。でも、今その言葉も拒否の言葉では無い事に嬉しくなってしまう。

「うい、好きだ。大好きだ」

嬉しそうに頷いてくれるういにまた口付けをする。何度も何度も。これからも変わらずにういを守り通したい。そう思いながら。



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