学校が終わって、ランドセルを放ってすぐさま家を飛び出す後ろからお母さんの声が飛んでくる。

「今日も銀ちゃんの家に行くの?」
「うん! 夜ご飯までには帰ってくるね!」

とても仲がいい家族だった。いつも両親はニコニコしていて、私もとっても幸せで。銀ちゃんの家も私の家もよく行き来して遊んで、ご近所同士の付き合いも良くて。銀ちゃんの家で散々ゲームをして、家に帰るとお父さんが帰ってきていて、お母さんが美味しい夕飯を作ってくれていて、お父さんが食卓に食器を並べていて私もそれのお手伝いをして。毎日楽しかった。

中学生になった頃だったか。心無しか変わらず銀ちゃんの家に行く私の後ろからかかるお母さんの声も弱々しくなっていた。銀ちゃんの家で遊んで帰ってきても、お父さんはいなくて。お母さんに聞くとお父さんは仕事が忙しいのよと寂しそうに笑っていたけれど。

1年くらいそういう事が続いて、お母さんとも会話をしなくなっていった。何となく銀ちゃんには心配をかけたくなくて、何も言わなかったけど銀ちゃんなりに勘づいてはいるようだったけれど、銀ちゃんは何も言わなかった。

中学2年生になる頃、両親は離婚した。お父さんはわかりやすく浮気をしていた。女と出て行ったお父さんのどこか嬉しそうな顔はずっと忘れられないと思う。お母さんは家事にも仕事にも手が付かずにお酒に男と溺れていった。そんな家になんか居たくなくて、中学校に通ってはいたものの家には寄り付かなくなった。銀ちゃんには、俺の家に来なよと何度か言われたけど、やはり頼る気になれなくて、地元の不良と付き合い始めて、私の男遊びが始まってしまった。銀ちゃんの悲しそうな顔を最後に中学卒業まで、銀ちゃんとは喋らなくなっていた。

高校は当時付き合ってたお母さんの彼氏さんがお金を出してくれるとかで、とりあえず高校には通うことになった。ついでに自分も飲食店でバイトを始めて、ひとり暮らしをする様になった。高校のクラス発表の日、なぜか銀ちゃんの名前もあった。同じ日、久しぶりに銀ちゃんから声をかけられて、私の新しい家まで送ってもらうことになった。学校から徒歩10分の道中、私は何を話したらいいのかもわからずに黙っていると銀ちゃんが家に着いた時、口を開いた。

「俺がういを守るから。ずっとういの事が好きだった。どうしたらいいかわからなかったけれど、もうういのそばを離れないから」
「何、それ」
「ういはそのままでいい。俺がういを連れ戻すから」

銀ちゃんの目はとても真剣だった。けれど、私はありがとうとお礼を言うことも、告白を断ることも受け入れる事もなく無言で家の扉を開けて、家に帰った。銀ちゃんの顔は見れなかった。

その後、学校では銀ちゃんが常に隣にいたけれど、私は拍車をかけたように男遊びが激しくなった。それでも、学校を休まずに高校を卒業したのはずっと銀ちゃんが迎えに続けてくれて、普通に接してくれたからだった。

高校の卒業の日、大学も学部も同じ所を選んでた銀ちゃんの事を知った私は銀ちゃんを家に呼び出した。

「銀ちゃん、もう私に付き合ってくれなくていいよ。本当に3年間ありがとう」
「嫌だ。ういが俺を突き放す我儘を言うなら俺はういを守り通すっていう我儘をする権利があるから。だから、大学でもよろしくな」

そう言って、銀ちゃんは笑った。大学に入ってからも私の男遊びも銀ちゃんが大学にいる間は、常にそばにいることは何も変わらない日々を送っていた。そんな中同じ学部の高杉晋助と土方十四郎という人とよく4人でつるむ様になってから、私の人生は少しずつ変わり始めたのだ。



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