*海外時代の話

夜、夕飯も食べ終え私は最近決まったドラマの脚本を真一は楽譜を片手に変わらない日常を送っていた。私が出演することになったドラマは主人公は難病にかかりながらも好きな人が出来て、両思いになり、やがて結婚はするが亡くなっていくという物語。私の役はこのヒロインの友人役でヒロインに病気の事は気にせずにアタックしなよと励ます2人のキューピット役にあたる。よくある物語だなぁと自分の台詞を確認しつつ、脚本全体を読んでいく作業をしていた。

「CDかけていいか?」
「うん、いいよ。今度指揮する曲?」
「ああ」

脚本を置き、楽譜が見たいと言うと手渡され、真一は曲をかけ始める。ベルリオーズの幻想交響曲……。

「恋に絶望してアヘン吸ってる曲だ」
「間違ってはいないが解釈が雑だな」

しかも4楽章。曲がかかる。いつもタイトルに反して華やかなところがあるなと思ってしまう。真一が隣に座ったので、楽譜を返すとすぐに手で指揮を始める。

「ベルリオーズ自身の恋は叶ってるのにな」
「好きな女優さんと結婚出来てるもんね。いいなぁ」
「……そうだな。ういのドラマはどういう話しなんだ?」
「ヒロインが病気で亡くなっちゃう物語。よくあるお涙ちょうだい」
「出演するやつがそういう事言っていいのかよ」

苦笑いをされてしまった。もちろんお仕事である以上ちゃんと向き合うよと反論するとはいはいと流されてしまった。最初の印象がそうだとしてもちゃんと自分なりに解釈をして演じる。それがプロというものだと思う。そんな事を思っていると曲が5楽章へと移っていく。

「真一はさ、死ぬ時はどんな感じがいい?」
「ういに隣にいて欲しいな」
「私も同じだなぁ。けれどその時は家族としてしかいられないね」

私達はどう足掻いても兄妹だから。真一も最近指揮コンクールで有名になってしまって、私自身も有名で。どちらが亡くなっても恋人という立場で悲しむことをしている暇はきっとないんだと思う。

「一緒にいて不自然ではないからいいけど、気持ちが違うからな」
「そうだね。一緒にいてもいいのがまた辛いかも」

だから、この何でもない毎日を大切にしたい。いつか、終わりを迎えてしまう時まで、ずっと一緒にいたい。急に人肌が恋しくなってしまい楽譜に目を戻そうとした真一に抱きつくと優しく手を背中に回してくれた。この恋が終わる時は真一の腕の中で終わりを迎えたいと一層きつく抱き着いた。

title:サディスティックアップル



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