*夢主はもう1匹の猫

嫌なことを考えてしまい徐々に息が苦しくなる。こういう時の為に発作を抑える薬をとり兄からもらっていたけど、力が出なくて薬に手が届かない。襖から漏れてくる月の光を苦しくなる息の中、焦点が合わない目でその光を見つめる。

その光を見つめていても楽になんかなるはずもなく、手足は痺れる一方で。このまま死んでしまうのも悪くないかななんて考えてしまう。

夾くんの憑いている猫は神様と永遠を誓わなかった。私の猫は誓ってしまった。その違い。産まれた時から慊人は僕のものだと言わんばかりに、私を閉じ込めた。慊人から許可が無ければ出られない部屋に自分の意志など関係ない人生。気づけば私も20歳になってしまった。外の事など何もわからないよく言えば箱入り娘というものか。

昔から受け続けてる慊人からの傷を思い出しては、また苦しさを増す一方。突然、月の光が部屋全体を照らした。もう顔を上げることも出来ずに誰か来たということだけを認識できた。

「あらあら、苦しそうですねぇ」

紫呉兄の声だ。そんなのうのうとしてないで、助けを呼んで欲しいと思ってしまって私はこんな状態でもやっぱり生きていたいと願っている自分に嘲笑してしまう。助けても言えない私にはとり呼んでくるねと姿を消した。次に気づいた時には、呼吸は落ち着いており、布団に寝かされていた。隣には紫呉兄と私を診てるとり兄がいた。

「落ち着いたか?」
「うん」
「結構危ない状態でしたからねぇ」
「お前はもう少し慌てて呼びに来い。ういを見た時、さすがに焦ったぞ」

いつもの調子の紫呉兄ととり兄に安心をしてしまう。とり兄に頭を優しく撫でられまだ疲れている体が眠ろうとしているけれど、襖の向こうは空が明るくなり始めている。

「こんな時間にごめんね」
「紫呉が慊人に会いに来ていてよかったよ」

紫呉兄はバツの悪そうな顔をしながら、ちゃんと寝れてるかなと思って覗いてよかったですよと言った。とり兄が少し呆れ顔になりながら私と向き直って、少しでも苦しいと感じたらすぐに薬を飲めと忠告をされた。

「うん、気をつける」

自分ではどうしようも出来ないような人生に答えは見つからないままだけど、心配をしてくれる人は少なからずいるから希望は捨てないでおこうと思うし、生きていたいけれども。後ろから顔を覗かせおはようと挨拶をしてくれた神様に恐怖を感じざる得なかった。

title:サディスティックアップル



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