今日の格好は、この間撮影の時に着たスカイブルーのローズ柄ドレス。このドレスの売り上げも好調の様で何よりだ。広い会場を見渡しながら、頭の中で愛想だぞ、愛想と兄様から何度も繰り返し言われた言葉を思い返す。

本日のお仕事は数社の芸能事務所と企業の懇親会。上からは幾つものシャンデリアが吊るされていて丸テーブルがいくつも並んでいる立食型の懇親会だ。もちろん来るのなんて嫌で当日まで粘ったけど、社長の妹だからと絶対に出なければいけないらしく、今日これが終わったらこのホテルのスイートルームでずっと食べたかったケーキを食べさせてやる、とその餌に釣られて出てきてしまった。別に私の家自体がそれなりに大きい家で親戚付き合いで慣れてるから、出来るには出来るんだけどめんどくさい。

兄様の後を付いてやっと全体的に挨拶が終わった。特に食べたいものもないので、ノンアルのカクテルをウェイターから受け取り一口飲む。兄様も一息ついたのかワインを片手にしている。

「にいさまー」
「社長だ」
「社長ー。先に部屋に行きたいです」
「ダメに決まってんだろ」

ちょっと俺、向こうに顔出してくると行ってしまった。仕事人間め。兄様も居なくなっちゃったし、本格的に部屋に行きたい。でも勝手に行っちゃったらケーキは無しなんだろうなぁ。1人になれそうなところを探していると、前から手を振りながら坂田さんが歩いてきた。服装が細い線のストライプ柄のジャケットに中にベスト、蝶ネクタイとこの間撮影で着ていた服だ。

「ういちゃん、こんばんは」
「こんばんは」

素っ気なく挨拶をするとさっきまでお偉いさんにはニコニコしてたのにつれないなーなんて言われてしまう。同じ事務所の人間にまでニコニコする義理はないし。

「何の用ですか?」
「いや、いるなって思ったから声かけてみたの」
「ふーん」

ういちゃん、本当におもしろいよねと坂田さんは笑いだした。……何かウケた。それより企業の人がこちらをチラチラと見ているから早く声をかけられる前に脱出したい。このお互い着ている服がペアもので目立ってるのもあるのだろうけど。

あの3人で撮影をしてから、何度かウチでも3人を起用したいと言ってくれたところがあるそうだ。全て検討中らしいから、今ここで親しくなっておきたいところなのだろう。そんな事を考えていると、1人こちらに近づいてきていたのであとは坂田さんに任せてしまおう。

「では、坂田さん。私はこれで」

ちょっと待ってよ! と声が聞こえるが無視。反対側にバルコニーがあるからそこにいようと、扉を開けるとそこにはタバコを吸っている普通のスーツ姿の土方さんがいた。

「どうも」
「ああ、ういか」

私は扉を閉めて土方さんの隣に立った。すぐ携帯灰皿を出して火を消そうとする土方さんはとても紳士に見えた。

「別に兄様も吸うし気になりませんよ」

そうかと携帯灰皿をしまい口に咥え直した。1人になりたかったのに何となく流れで横に立ってしまった。でも、隣のバルコニーも近いしどちらにしろ挨拶はしなければいけなかったろうから別にいいか。

「ういは挨拶終わったのか?」
「終わりましたよ。土方さんこそこんなとこでサボってていいんですか?」
「俺も終わったし、こういう場はどっちかっていうと苦手だからな」

あ。同じだ。確かに坂田さんと違って土方さんが愛想良く挨拶してる所は想像つかないな。特にどちらともしゃべることはなく外の風景を眺める。花とか植えてあるんだろうけど、扉の向こうから漏れてくる光のみで、暗くて奥までよく見えない。退屈だ。早く終わらないかな。隣で吸い終わったタバコを携帯灰皿に入れている土方さん。会場に戻るのかなと視線を向けるとこちらを向いた土方さんと視線が合った。

「一緒に抜けるか?」

女の子ならすぐ惚れてしまいそうな綺麗な笑みを浮かべてる。正統派っぽいのにそういう事言っちゃうのか。ちょっとイメージと違うな。

「冗談やめてよ」
「割と本気だったんだが」
「ごめんさない。先約があるので」
「彼氏か?」
「まさか。今日私はちゃんと懇親会に出てきたのでご褒美として、兄様とスイートルームに泊まりなんとケーキ付きが待ってるのでーす」

ちょっとおちゃらけて見ると、軽く鼻で笑われ相変わらずだなと言われた。そう、相変わらずなのだ。

「なので、ごめんさない」

はいはいと背を向けて会場に戻っていってしまった。その扉の向こうから見えた兄様の顔が逃げるなと怒っていたので、私も続いてバルコニーを出た。



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