ベビーピンクのローズ柄のドレス。上に黒のファーボレロを羽織り、足元はボレロとお揃いの色のピンヒール。髪は左側にまとめられ動くとカールした先が肩の周りを揺れ動く。頭の上には小さなティアラ。耳元にはシンプルなパールのイヤリング。ういはピアスを開けたがらないからイヤリング派。これがまた様々な理由でピアス穴を開けれない女性達の共感を呼ぶ。デザインしたイヤリングの売れ行きも好調だ。あとは撮影時に白のレースのグローブをはめて完成となる。それとドレスと同じ色のクラッチバッグは男性が持つらしい。

今日はパーティードレスの撮影でテーマはSweet Queen。甘さもあるがどこか大人な雰囲気を感じさせるパーティードレスというコンセプトだ。女性のドレスが主役で男性の服装がそれを引き立てるという平たく言ってしまえば女王様とそれに仕える執事みたいなものだろうか。

「おはようございます」

撮影スタジオに入ってくるうい。まだあと2人と一緒に撮影を行うので、ういは用意されてる簡易の休憩所の椅子に腰をかける。俺は水のペットボトルにストローをさしてういに持っていく。

「ありがと。2人はまだなの?」
「だな。今さっき着いたばかりみたいだし。前の仕事が2人とも押したらしい」
「ふーん」

今日の流れ覚えてるよな? と確認する。

「3人揃って撮影。その後男性のソロ撮影。私と男の人それぞれペアのあと男性ソロ。最後に私が2パターンの衣装でソロ撮影でしょ?」

適当に資料を読んでいるかと思えば案外しっかりしているものだ。だから長いから早く帰りたいなんて言ってることは見逃してやろう。

少しして銀時と土方が撮影スタジオに入ってきた。ウチの事務所を支えてくれているツートップで、誰かと違いテレビにもよく出てくれて、仕事はしっかりしてくれて申し分ない人材だ。どちらもマイペースなところがたまにキズだが。

服装は細い線のストライプ柄のジャケットに中にベストを銀時は黒、土方はグレーの物を来ている。黒の蝶ネクタイは同じものをしていてかなりシンプルなものだ。スタジオの最終確認にもう少し時間がかかるのか2人もペットボトルを片手にこちらに向かってきた。

「ういちゃん。初めまして。俺、坂田銀時ね」
「よろしく、土方十四郎だ」

先に2人にういはお前らのことを知っている"だけ"と教えておいて良かった。ういは2人と撮影だと聞いた時、名前と顔は知ってると言ってたから。

「よろしくお願いします」

ちょっと笑って頭を軽く下げるだけのういに2人は苦笑い。俺が立って挨拶、と声をかけると渋々立ち上がってもう一度挨拶をし直してういすぐに座ってしまう。

「噂通り愛想ないね。土方くんよりないんじゃない?」
「俺は最近マシになったがな」

撮影長くなりそうだから機嫌が悪いんだと小声で伝えるとまぁ、いつもここはこんな感じよとこのスタジオで撮り慣れてる銀時が周りの様子を伺いながら声を潜める。

スタッフの1人が近づいて来て、スタンバイお願いしますと声がかかる。銀時と土方が持ってるペットボトルを机の上に置いて、ういもグローブをスタイリストから受け取りはめながら撮影ブースに向かう。

入口付近に目をやれば銀時と土方のマネージャーが遅れてすみませんと頭を下げていたので俺も社長としてフォローに行く。……最近ういにこの仕事を受けてもらうためにいろいろ手を回していたから、事務所のマネージャー達まで頭が回っていなかった。1回モデル達のスケジュールを管理し直さなければと考えているとカメラマンの補助をしていたスタッフがカメラマンに何かを言われて俺に向かってきた。何かあったのか?

「あの……ういさん何ですけどもう少し指示を聞いてもらえるよう言ってもらえませんか? ちょっと悪い感じの表情が欲しいんですけどしてくれなくて」

ういを見るとアンティーク調の1人がけの白のソファに足を組み、指示通りのポーズはとっているものの表情は悪い感じとはほど遠い面倒くさそうな顔をしている。銀時はういちゃーん、指示出てるよーと場を和ませようとしてるけど、土方は少し不機嫌になっている。俺やういに慣れたスタッフからすると珍しい光景ではないが、初めて見るスタッフからしたらなんだコイツって思われても仕方ないだろう。

「申し訳ございません。ですが気にしなくても大丈夫です。シャッターを押せばわかります」
「……わかりました」

スタッフは半信半疑といった顔で、カメラマンの元へ戻っていき俺の言った事を伝えた。カメラマンも仕方ないと言ったように試しにシャッターを押した。だが、撮ったものを確認すると納得いくものが撮れたのか、次々に指示を出しながらシャッターを押していく。シャッターを押す瞬間は最高の表情をくれる。これが高杉ういだ。

小物を入れ替え、ペアの撮影も進みあとはういのソロのみ。男2人のソロ撮影も無事に終わった。男のソロは銀時が先に終わって、控え室へと帰って行ったと思ったのに、私服に着替えた銀時は撮影スタジオに戻ってきた。

「帰ったんじゃなかったのか?」
「ん? ういちゃんのソロ撮影見たいなって。さっき廊下ですれ違ったときういの撮影もう始まるか? って土方も聞いてきたから見ていくつもりなんじゃない?」

その言葉通り私服に着替えた土方が現れた。自分の仕事が終わったらさっさと帰るタイプなのに珍しい。土方のマネージャーも驚いている様子だ。その様子に気づいた土方があんな女のモデル見た事ないから見てこうと思ってなとその様子に答える。

銀時と土方はういと顔を合わせて撮影をしていた訳ではないから、その顔が変わる瞬間を見ていないので気になるようだ。ういが真っ白な背景の真中に立ち次々とポーズを決め撮影を終えていく。あとは色違いのものに着替えるため、俺達の横を横切って着替えにいく。どうだ? と俺が2人に視線を送る。

「すげーな、ういちゃん。シャッター切るときだけ別人」
「そりゃ人気もあるわけだな」
「だろ? それよりお前ら最後まで見てくのか?」
「どうせ仕事なくて暇だし。ういちゃんの撮影面白いしな」
「興味あるから最後まで見てくわ」

なんならういちゃん交えて夕飯でも行かねー? と銀時の言葉を俺と土方が流していると着替えが終わって涼しげなスカイブルーの色違いに着替えたういが現れ、順調に撮影は終わっていく。写真を最終確認して本日は以上です! と現場全体に声がかかる。パソコンの画面を覗いてたういは、終わったーと背伸びをして俺に寄ってくる。

「兄様! 早く帰ろ!」
「下にタクシー呼んだからそれで帰れ。俺はまだ仕事があるから」
「夕飯は?」
「家で食べるに決まってんだろ。作って待っててくれ」

そう頭を軽くポンポンと叩くと了解でーすと控え室に早足で戻って行った。その様子を見ていた銀時と土方は口が開いたまま俺を見ていた。何だ? と聞けば銀時がはあ? と大声をあげる。

「兄様だと? この間のテレビのコメント映像でも兄様とか言ってたけどあれキャラじゃないの?」
「高杉が夕飯誘っても来ないのは、妹の手料理を食べたいが為なのか?」
「何か変か?」

昔からそう呼ばれてるし、夕飯もどの料理よりういの手料理が1番上手いしな。なぜか気づいたら現場全体がこちらを見ていたみたいで何かをコソコソ話している。初めてくる現場はいつもこうなるから面倒だ。時計を確認すると時間も時間なので、お先に失礼しますとスタジオを出た。

「モノホンのシスコンじゃん。高杉」
「俺もキャラかと思ってたわ」
「普通そう思うわな。俺、ういちゃん狙ってたのに本人相当ガード硬い上に高杉が立ちはだかってるんだけど」
「まっ、せいぜい頑張れや」



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