「おい、今日事務所来いって言ったろ」
「え? 行ったよ?」

帰ってきた兄様はジャケットを脱いで椅子にひっかけ、ネクタイをときながら話しかけてくる。行ったけど社長兼マネージャー兼モデルである兄様はいなかったから帰ってきた。

「居なくても普通待ってるものだろうが。ういは家で仕事の話がしたいのか?」
「嫌ですけど」

兄様にため息をつかれてしまった。まぁ、仕事をしたがらない上に仕事を選ぶ私に問題があるんだけど。

「もういい。そこ座れ」

私は素直に兄様が座っている向かいに座る。鞄から2つの資料を出して目の前に置かれる。左の表紙にはCM出演の依頼。右の表紙にはトーク番組出演の依頼。どちらもテレビのお仕事だ。

「兄様。これどっちも渡し間違えてますよ?」
「いや、間違いなくういの出演依頼だ」
「テレビの仕事はしたくないの」

テレビは何時間も収録があって、ずっとニコニコしていなければいけないし、周りの出演者に気をつかわなければいけない。その点私の職業であるモデルのお仕事の雑誌関係は写真を撮って好きな話が出来て楽しい。お洋服や美容の仕事は大好きだし、自然と笑顔になれるけどテレビだと自分の生活など関係ないことまでつつかれる上に、日本全国にそれが流れるのが嫌いなのだ。

勿論、単なるわがままではない。私も最初は出るべきだと考えていて、2回立て続けに出演をしたことはある。その時に打ち合わせと違うことを聞かれたり、挙句の果てには兄様との生活の様子が知りたいなどプライベートを散々メディアに流された。芸能活動はプライベートもあったものじゃないとよく言うが回避出来るならしたいものだ。雑誌だと言葉が載るだけだからテレビよりはダメージは少ない。読んでいるのは特定の層だけだったりとかね。

「でも俺がトーク番組出る時とかのコメント映像は断らねぇよな」
「兄様、シスコンキャラのイメージだから私もブラコンで売った方がいいかなって」

実際にブラコン、シスコンだけど。

「そのトーク番組、俺とペアでの出演依頼だがどうだ」

今の会話の流れでそれを言うか。言葉に詰まってしまった。トーク番組の資料を捲る。
内容は美男美女兄妹・初共演! 20代女性から絶大な人気を誇るカリスマモデルの妹と抱かれたい男No.1タレントの兄の素顔に迫る!! である。うわぁ、出たくない。

「絶対嫌」
「CMは?」
「嫌」
「絶対じゃないんだな?」
「間違えた。絶対嫌。あー、それか受けてもいいよ。あのセクハラスタッフがいるブランド会社切ってもいいなら」

偉そうだって? 天狗だって? 何とでも言えばいい。私は今5社イメージタレントを務めているが真摯にちゃんと向き合っているし、事実商品は売れている。

「あの会社なぁ。そこが1番デカイから切られたら困るな」

セクハラスタッフの顔を思い出しているのか苦い顔をしながらどちらも断っとくと資料をカバンにしまう。

「それに、この間ういが雑誌で着てた服完売状態みたいだしな。それで、許してやる」
「おお! そうなんだ! やったね!」
「流石というかなんというか。もう少し仕事してくれると嬉しいんだが」
「んー? 何か言った?」
「何でもない。夕飯は?」
「今日はロールキャベツとコンポター。食べる?」
「食べる」

私はキッチンに向かい2つの鍋に火をかける。お皿を準備して後は温まるのを待つのみ。あ、ワイン出しておこう。

「なぁ、何で俺が言う事を聞かないういを追い出さないかわかるか?」
「んー何ででしょう。モノ好きだから?」

キッチンの木組みで空いた窓から見える兄様の目が一瞬こちらを睨んだ気がした。モノ好きって言ったのが気に食わなかったのかな。

「ういの料理が上手いからだ。それが無ければいくら上手い契約話が来たとしても俺は性格難のういを事務所からも家からも追い出す」
「おお。兄様はそれだけ私の手料理が好きなんですねー」

いい加減に温まったロールキャベツとコンポタージュをお皿によそり、フランスパンを添えて出来上がり。ワインも忘れずに。机に運んで2人でいただきますと手を合わせる。

「じゃあ、料理が出来る限り私は我が儘言いたい放題ってことだね」
「ホントいい性格してるよ」



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