朝、目を覚ましたら体が重い。体を起こしてみるけど頭が痛い。咳が昨日より酷くなっている。……風邪だ。何度くらいあるんだろう。時間だけ携帯で確認すると8時。今日明日と大学で授業が入っていないのが唯一の救い。重い体をまたベッドへと倒す。体温計とかどこだっけ。薬とかあったっけ。頭痛が邪魔をして、上手く考え事が出来ない。動けないならこのまま寝ていよう。もう少し寝たらちょっとは、動けるようになるだろう。私はまた目を瞑り眠りに入った。

目が覚める。カーテンから入ってくる光がさっきよりも明るい。体を起こしてみるもあまり気だるさは変わらなかった。そんなに熱があるのかな。携帯で時間を見ると11時。3時間は眠ったのか。
外から車の音が聞こえる以外は何も聞こえてこない静まり返った部屋の中。少しの衝撃でも頭痛が酷くなりそうなくらい頭が痛い。後ろにある壁を背もたれにしてだらしなく座る。いつもより呼吸が深いのが自分でわかるくらい肩が上下する。何よりこれ以上もう動けない。もう1度寝たいけど、不思議と眠気はなくて、ただ頭の痛さにどうすることも出来ない。

しばらくそのままぼーっと座っていると寂しさが込み上げてくる。寂しい……と呟いたけど、喉は痛くて上手く声が出ない。咳が出てる時点で薬を飲んでおけばよかった。なんて、後悔していても仕方ない。握ったままの携帯を見つめる。……秀一さん。仕事だよね。しかし弱った思考は電話をしたいという思いで、いっぱいになるが赤井さんの迷惑にはなりたくないとメールを打つことにした。いつもより動きが遅い指で風邪をひいてしまいましたと打つ。ただ1行でいいから大丈夫か? と返してくれればいいやくらいの気持ちだった。すぐに携帯がなった。携帯には秀一さんの文字。文面にはすぐに行くと1行。全く予想してない1行にびっくりして悪いなと思ったけど、来てくれるんだとどこか安心をしてしまった。

少しすると合鍵を使って入ってきた秀一さん。
片手にはコンビニの袋を持っている。ベッドに腰をかけ私の額に手を当ててくれる。冷たくて気持ちいい。

「だいぶ熱ありそうだな。熱、測ったか?」

私を横にさせながらそう問う秀一さん。仕事はどうしたの? とか聞きたかったけどそこに秀一さんがいる事に、随分安心したのか張っていた気が全部なくなって、さらに体が重くなった。秀一さんの問いに首を横に振ると、小物入れのタンスから体温計を持ってきてくれた。……何で体温計の場所なんか知ってるんだろう? と思うものも上手く声が出ないので、体温計を受け取り脇に体温計を挟む。私が体温計を挟んだのを確認して、冷蔵庫借りるぞと一旦扉の方に消えていってしまう。キッチンの方から冷蔵庫に物を入れる音が聞こえてくる。

しばらくして、体温計がなり確認するとなんと40℃。これは辛い訳だと自嘲する。秀一さんが戻ってきてどうだったと言われ体温計を渡すとため息をつかれてしまった。いろいろ買ってきてくれたみたいだし仕事に戻るんだろうなとぼーっと秀一さんを見ていると携帯を取り出して電話をかけ始めた。なかなか相手が出ないのかその時間を持て余すように、ベッドに腰をかけ携帯を持ってる反対の手で、私の頭を撫でてくれる。ちょっと汗をかいてるのが恥ずかしいけどとても心地いい。相手が電話を取ったのか赤井ですと電話を始めた。

「思ってたよりひどいんで今日は早退でお願いします。……そしたら今日俺が必要なことが起きなければ明日休みもらえませんか?」

その後数回頷いた赤井さんは、電話を切って上に羽織ってるジャケットを脱ぎ、下を家においてあるスウェットに着替える。

「秀一さん仕事大丈夫なんですか? それに今更ですけど風邪移したら大変ですし」
「上司が最近働きづめだったからいい機会だって。今日明日は看病してやれるから俺に移すなんて余計なこと考えてないで大人しく寝てろ」

それに連絡寄越したのはういだろ? と言われると言葉に詰まってしまう。でも来てくれるなんて思わなかったし。秀一さんを見ると、体温計をタンスにしまいながらしかし40℃もあるとはと鼻で笑っている。私だってこんな熱出したくて出したわけじゃないと反論したいけどそんな元気はなくて。またベッドに腰をかける秀一さん。なんとなく服の裾を握ってみると、優しい目と視線が合う。

「何か誘ってるみたいだな」
「病人に何言ってるんですか」
「声随分掠れてるな。プカリ持ってくる」

そう言ってプカリを持ってきてくれた秀一さん。
ゆっくり私を抱き起こしてくれて、キャップを開けたペットボトルを渡してくれる。赤く腫れてるだろう喉に冷えた飲み物がとても気持ちいい。ペットボトルを秀一さんに渡し、キャップを閉めた秀一さんは近くのテーブルに置く。

「何か食べられそうか? 薬飲まないと熱下がらないからな」
「あんまり食欲ないです」
「そうか。少し寝るか?」
「眠くないんですよね。久々に秀一さんとゆっくり出来るんでいっぱいお話ししたいです」

今日は随分素直だなと言われるけど風邪のせいだ。風邪の。喉は痛かったけど最近あった事をひとつひとつ話す。バイト先におもしろい人が来たとか新しい喫茶店が出来たとか最近読んだ本の話とか。

「うい」
「何ですか?」
「俺に遠慮なんかしないで、普段から会いたいと思ったら連絡してきていいからな」
「え?」
「どうせ今日も朝から辛かったんだろ」

何も答えない私に当たりだなと笑う秀一さん。確かに当たりだけど、秀一さんの仕事はとても大変な仕事でこんな小娘1人に振り回されていいはずがないのだ。

「確かに忙しいときはなかなか連絡がつかないし俺自身もあまり積極的に連絡をとるほうじゃないから、遠慮しがちになるかもしれないが迷惑だなんて1度も思ったことはない」

初めてそんな事を言われてびっくりしてしまう。
こんなに思われてていいのかな。

「そんな嬉しいこと言われると逆に心配になってきます」
「それだけういのことが好きなんだ」
「秀一さんも熱あるんじゃないですか? 普段そんな事言わないじゃないですか」
「馬鹿にするな」

そう言ってそっぽを向いてしまう秀一さん。こんな一面もあるんだなと何だかくすぐったい気持ちになった。カーテンから差し込む光はオレンジ色に変わってきた。少し落ち着いたのかお腹も空いてきたな。ずっと側にいてくれるのがたまらなく嬉しくて、長々とおしゃべりをしてしまった。

「それよりいい加減薬飲まないとな。おかゆ作るが食べられそうか」
「はい」

そう言ってベッドから立ち上がりキッチンに向かおうとする姿に、寂しくなってしまい咄嗟に手を掴んで引き止めてしまった。どうした? と言われ返答に困っていると掴んだ手を優しく握り返してくれて、額にキスをされた。大人しく待ってろと頭を撫でられ、キッチンの方へ消えていった。



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