プラトニック | ナノ



学校は相変わらず、女子たちがヨハンの彼女の詮索をしていて、それを知ってか知らずか、ヨハンはニコニコと十代の隣を歩いている。遊馬が凌牙と付き合ったのだと、遊星から聞いてなんとなくホッとした。と同時に何処か、羨ましさもあった。二人は学校も公認のカップルで、「お似合いだ」と笑っていた気がする。

(オレらも、公認になったらな…)
「あ、あの、ヨハンくんっ…」
「え?」

十代が悶々と悩んでいる隣では、女子が三人、控えめに声をかけていた。お呼びだしらしい。こんなの、ほぼ毎日なのに、何故か毎回、ハラハラさせられる。もしかしたら付き合うんじゃないのか、と。自分という恋人がいても、「お試し」だ。彼に恋人が出来たっておかしくない。いつ自分が「友達」に戻ったっておかしくないのだ。

「ちょっと行ってくるな」
「おう。待ってる」

昇降口で取り残され、ヨハンと女子生徒たちは裏庭の方へ消えた。近くの女子たちが「告白かな?」と騒ぎ立てる。また今日のクラスの話題は、ヨハンに決まりだ。

「十代先輩、おはようございます」
「遊星、おはよー」
「中に入らないんですか?」
「ん?ヨハン待ちなんだ」

ああ、転校生の…と頷く遊星は、無表情ではあるが、何処か寂しげに瞳が揺らいでいた。どうしたものか、声をかけようとすると、遊星はポロリと、

「待ってばかりじゃ、駄目ですよね…」
「え?」
「あ、こっちの話です。それじゃあ先輩、また後で」
「おー」

片手を上げ、一年の昇降口へ入って行った遊星を見送り、十代は腕を組む。
待ってばかりじゃ、駄目。
そう言えば、自分も待ってばかりかもしれない。手を繋いでくれるのも、電話をくれるのも、ヨハンから待ってばかり。やはり恋というのは、積極的にいかないと駄目なのだろうか。

「十代、待たせてごめん」
「お、ヨハン。なんだった?」
「いつものだよ」
「断ったのか?」
「ああ、でも…」
「でも?」
「ううん。なんでもない」

話をかわされ、早く教室に行こうと急かされる。どんなに言っても「でも、」の続きは教えてくれない。なんだか、不安になった。何故教えてくれないんだろう、と。裏庭から出てきた女子の一人は、うれしそうに笑い、泣いていた。隣の女子は「良かったね!」と肩をさすっていたりしている。

(もしかして…)
(告白、オッケーしたのか…?)

まさか。自分がいるのに?
だけどヨハンが先ほど、言い掛けたのを思い出すと、合点する。

(どうしよ…)
(どうしよう)
「十代、今日、先に帰っててくれ」
(それって、)
(あの子とデートするから?)
「十代?」
(もうお試し期間は)
(終わりなのか?)

返事をしない十代に、心配そうに顔を覗き込むヨハン。だけど十代は無理に笑い、「なんでもないぜ」と言った。精一杯の抵抗だった。

「じゃあオレ、こっちだから」
「あ、十代っ」

ヨハンの呼びかけには答えず、クラスに入ると、女子がザワザワと騒いでいた。

「聞いた?ヨハンくん、隣のクラスの子とデートするって!」
「あの子が泥棒猫ね…!きいっ」

デート。デート…。
自分たちだってしたことがない。デートなんて。胃がキリキリする。胸がはちきれそうで、イライラする。

(馬鹿かオレは…っ)
(お試しが終わっただけだ)

元から、恋人と言っても友人と全く変わらない状態だった。今更、お試し期間が終わったって、そんな大差ないはず。なのに、なのに。

「なんでイライラすんだよ……」

ああもう、朝から最悪な気分だ。
全部きみのせいだ。ヨハン。
今日は憂鬱。

だ。バカ。