プラトニック | ナノ



きっと、恋なんて彼を見た瞬間から始まってたんだ。長い旅路のようにも思えてそれは一瞬。好きで居てほしい。好きで居てくれないなら突き放してほしい。中途半端なまま、愛に縛られたくは無いんだよ。

「ヨハンいるか?」

文化祭が終わり、皆の片付けが終わったあと、十代は決意をしてヨハンが居るクラスへやってきた。クラスメートに彼が居るかを聞くと、服を着替えてまだ片付けをしているヨハンが奧にいた。クラスメートが声をかける。十代を見た彼は驚いた顔をしながらも傍に来てくれ、「どうした?」と真剣に聞いてくる。

「話したいことがあるんだ。少しいいか?」
「ああ、いいぜ」

ヨハンはクラスメートに声をかけ、ここでは聞かれてしまうので屋上へと行く。

「どうしたんだ?」
「オレ、オレな、ヨハン。もう嫌なんだ」

冷たい風が頬をなでる。揺れる十代の髪に、ヨハンは不安そうに眉を寄せた。何が嫌なのか、また自分は、彼にフられるのか、そんな思いが募り、耳を塞ぎたくなった。だが十代が開いた言葉は、全く裏腹のことで。

「曖昧なまま、お前を好きになりたくない」
「?それはどういう…」
「ヨハンはまだ、オレのこと好きか?」
「好きだぜ」

その言葉に嘘はない。十代は即答の返事に少しはにかんだ。それから「オレも」とヨハンに返す。

「オレも好きだ、ヨハン」
「え?十代…」
「ヨハン、好き、もう曖昧なまま付き合いたくない。オレを愛してるなら、キスしてくれ」

もう一度、さっきみたいに。
ヨハンは躊躇いもなく、十代の唇へ自分の唇を重ねた。自分で言っておいて何だが、凄く恥ずかしい。

「もう曖昧な付き合いは止めだ。十代、オレと付き合ってくれ」
「…っ、もちろんだ」

お試し期間は終わり。嬉しさのあまり涙が頬を伝う。おかしいな、こんな女々しいはずはないのに。そう十代は思いながらヨハンへ抱きついた。
こんなに息が苦しくなるほど、誰かを好きになったことはないだろう。きっとそれはヨハンも同じだ。

「十代、今まで、お前を苦しませてごめんな」
「ヨハンも同じだったんだろ?色々、酷いこと言っちまってごめん…」
「お互い様だな」
「本当だ」

今度は二人でニコリと笑い、夕日が沈んでゆくのを見送った。空では月が顔を出していた。




「なんかあんた…最近、ヨハンくんにベタベタな気がする」
「気のせいじゃないか?」
「んなわけないでしょーが!」

次の日。学校はいつもどうり賑やかで、変わらない日々が顔を出す。ハロー、はろー。

「気のせいだよな、ヨハン」
「気のせいだな、十代」
「きい!イチャイチャ抱き合ってるのに気にしない方がおかしいわよ!」
「まさかヨハンくんの恋人があんたとはね…」

世界は変わらない。変わるのは人。新しくできたのはカップル。いや、バカップルで。女子は歯を食いしばるようにして抱き合う二人を見つめた。

「良かったぜ」
「遊戯、」
「どうしたんだ?」
「近くにクレープ屋が出来たんだってよ、だから、行ってみようぜ」
「ああ、そうだな」

一つのカップルは未だに不器用で。

「先輩、幸せそうで良かった」
「負けてられないな」
「…ジャック、」
「なんだ?」
「好きでいてくれて、ありがとう」
「こっちこそ」

一つのカップルは小さな幸せを噛みしめていて。

「十代先輩、良かったなー!」
「おい」
「なんだ?」
「……嫉妬するオレにも気付けよ…」
「え?何て言ったんだ?」
「しらねぇよ」
「えぇ!?あ、シャーク!」

一つのカップルはまだ不器用で。
そして一つのカップルは、今という時間を愛していて。

「十代、今日の帰りにクレープ屋に行こうぜ。新しく出来たんだってよ」
「おう!行こうぜっ」

君を愛せて良かった。
君を好きで良かった。
日々が変わらなくたっていい。
だって、毎日を色付けてくれるのは君だから。


(はろーハニーダーリン)
(オレたちは今幸せです)