プラトニック | ナノ
昼下がりの睡魔。午後の日差しは暖かく、睡魔が完全に身体を蝕み、だるくなる。教科書を机にたてて、見てるふりして眠る。お決まりの午後コースだ。 結局、十代はヨハンと仲直りする事ができずに、次の日を迎えた。仲直りしたい気持ちはあるのに、素直になれない。
(ヨハンに…会いたい)
全く喋って無かったから、彼の声不足。いつかの帰り道みたいだ。ヨハンの声が聞きたくて、電話しようとしたが待った、あの夕暮れのことを。結局、ラブコールなんて甘いものは来なかったけれど。
(あ、王様だ)
ちらりと校庭を見てみると、王様ことアテムが、体育の授業らしく校庭をぐるぐる走っていた。隣には彼の親友である、城之内が一緒になって走っている。
(王様とデュエルしてーなあ…)
アテムは、この学校一、デュエルの強い男だ。彼に挑んだ挑戦者たちは、ことごとく打ちのめされた。十代が憧れる先輩だ。だがアテムはあまり学校に来ることはなく、彼の祖父がやっている仕事の手伝いをしているらしい。十代は毎回、デュエルを申し込もうとするが、アテムが居ないが為に出来ないことがここ毎日。
(今日はデュエルしてくれっかなー)
眠気など何処かに吹っ飛んだかのように、身を乗り出すような格好で外を眺めていると別の声。
「遊城十代くん、席につきなさい」 「はあい…」
どうやら身を乗りだし過ぎたようだ。
ここの一階上を行くと三年の教室がある。放課後になり、十代は、遊星と共にアテムがいる教室にやってきた。遊馬は凌牙とデートだと先に帰ってしまった。
「アテム先輩何処かなー」 「もう帰ったんですかね…」 「うーん」
教室中を探してもアテムの姿は見当たらない。クラスメートに聞いてみると、やはりアテムは、城之内と一緒に帰ってしまったらしい。はあ、とうなだれる十代に、肩を叩く遊星。とりあえず帰ることにし、帰りに近くに出来たレストランに寄ることにした。
「くっそお!なんでオレが行くたびに、先輩帰っちゃうんだよー!」 「オレたちも早くに行ったつもりでしたがね…」 「もういいや。レストランでエビフライでも食って、デュエルしようぜ」 「はい」
負けないぜ、と気合い充分な二人は、レストランへと着いた。中は小綺麗なインテリアで、天井には天使の絵が飾っており、何処か中世的のような場所である。
「お客様はお二人で宜しいですか?」 「あ、はい」 「ではこちらにどうぞ」
二人が席に吐く途中、見慣れた人物を二人見つけた。先ほど、デュエルを申し込もうとしたアテムと、城之内だ。
「あっ、王様だ!」 「え?あ、本当だ」
どうやらあちら二人には、こっちなんか気付かないらしく、楽しそうにお喋りに夢中のようだ。声をかけようとした十代を、遊星は「邪魔をしちゃ悪いですよ」と引き止め、彼らが座る斜め後ろの席に座った。
「んー、デュエルしてー」 「そうですね…先に帰ってしまう前に引き止めたい限りですが…」
二人がいる席からは、アテムの姿しか伺えないが、とても楽しそうにしているので、声をかけて良いか迷ってしまう。 うーん、と悩んでいると「あ」という声に二人は横を見ると、アテムの双子、遊戯が立っていた。
「遊戯先輩じゃないですか」 「先輩も夕飯ですか?」 「いや?ボクはただ、彼らを見てるだけだよ」
彼ら、と指を指した方を追うと、そこにはアテムと城之内。まさかストーカー?という疑いの目を送る十代に、クスクスと笑って隣に座った。
「あの二人、やっと放課後のデートまでいったんだ」 「やっと?」 「うん。あの二人さ、相思相愛のくせして告白もしなければ、こうやって放課後、遊ぶことも出来なくてね」
互いに互いを想い合っているのに、先へと踏み出さない二人を見ていて、ずっとじれったかったという。それを聞きながら、遊星は朧気に、アテム達の方を向いた。 互いに互いを想い合っているのに。 自分とジャックも、そうだったのに。自分が意気地なしのせいで彼を困らせた。
「もう一人の僕がやっと、城之内くんにデートの誘いをしたんだけどさ」 「楽しそうですよねー」 「うんっ、心配してついて来なくて良かったよ。だからボクは帰ろうと思ってさ」
視線をアテムに向け、くすりと笑う遊戯は席を立つ。
「恋は、自分に素直にならないとできないものだよね」
そう言い残して会計へ行った遊戯の背中姿を見つめて、遊星は心の中で決意した。このままではいけないと。素直になればきっと、モヤモヤとした気持ちも晴れると。
「十代先輩!」 「え、はい、?」
テーブルを叩きながら席を立つ遊星に、思わず生返事をしてしまう。しかし彼はそんなの関係なく、頭を下げた。
「すいません、今日は帰ります。どうしてもやらなくちゃいけないことがあって」 「え?あ、おう、」 「それじゃあ失礼します」
慌てたような、だけど何処か決意したような眼差しに、十代は去った遊星を見つめ、頬杖をつくと軽く手を振った。
「ファイト、遊星」
携帯を取り出す。彼に電話をかける。三コール目で電話を取る彼に一言。
「学校の屋上で待ってる。」
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