俺たちの恋って
遊馬は手元にあるコーラをじっとみていた。しゅわしゅわと音を立てて口ではじける感覚が見ているだけでもよみがえる。
そんなことはお構い無しに遊馬はポツリと呟いた。
「恋ってこんな感じなんかなぁ」
思わず隣にいた少年がコーラを吹き出した。
昼下がりの美術室。空を眺めていた遊馬は、隣でデッサンをしている風也と他愛のない会話をしていた。彼が用意したチョコとジュースを飲んでいた時、遊馬がなんとなくといった様子で声を出した。彼の口からまさかそんな言葉がでるとは思わなかった風也は、口に含んでいたコーラをいっきに吹き出した。
きたねーなーと笑ってタオルを渡してくる遊馬に誰のせいだと思ってるの?と少し怒り気味に返す。
「遊馬、まさか恋してるの?」
「へ?なんで」
「いや、だって、恋ってこんな感じっていうからさ。恋してるのかなって」
そんなことを返せば、うーん、と悩んでしまう。元から恋なんて皆無な遊馬にとっては恋がどんな感覚を味あわせてくれるか解らない。
「きっと恋したらこんな感じにしゅわしゅわってすんのかなーって」
「うーん、間違ってはないかな」
そうなのか?と返せば、風也はニコリと笑ってうなずいた。
「恋は色んな形に変えていくんだ。このチョコみたく甘くなったり、こっちのチョコみたくビターになったり。炭酸みたいにはじけた恋とか、ジェットコースターみたいにハラハラドキドキする恋とかさっ」
「風也はどの恋?」
「今のところ甘い恋かな」
「ノロケ乙っ!」
「聞いてきたのは遊馬でしょー!?」
手元にあったチョコレートを一粒、遊馬に投げつけると笑ってそれをキャッチする。
それから少しの考え事。昨日から蠢くこの感情が恋だとしたらどの恋なのだろう。イライラしてて、泣きそうで、でも傍にいたくて。どう名をつけたらいいのだろう。
「なあ、風也」
「んー?」
「相手を考えるだけでイライラしたり、悲しくなったり、四六時中相手考えちゃって、離れがたいことって、どんな恋だと思う?」
思いきってぶつけた疑問に風也はしばらく悩む。それから小さく笑った。
「それはただの病気だよ」
「治ると思う?」
「なおるよ」
「え!」
ふふっと小さく笑うと風也はとある場所を指差す。
「彼に直接聞いたらね」
遊馬がそこを追っていくとそこに立っていたのは四六時中考えていた彼、凌牙で。なにか言いたいはずの口は思いの外別のことを発していた。
俺たちの恋って
(どんな形がするんだろうな)
(彼は即答した)
「炭酸の恋だろ。」