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 恋愛ロジック



花畑があった。とても美しい花畑と、そこに佇むひとりの少年。彼は思わず息を飲んだ。ああ、世界にはこんな美しい少年が居たのかと腕を伸ばした。しかし何故かその少年に触れることが出来ず彼は悔しそうに唇をかむ。なんで届かないんだ。彼は再び手を伸ばした。やはり届かない。それを繰り返しているうちに、ふと、視界が、暗転した。


「………………」

けたたましさに目を開けると、そこに広がるのは花畑でも少年でもなく、見慣れた我が家の天井だった。視界が未だに定まらないまま、腕だけをゆらゆらと伸ばし、棚の上に置いてある目覚まし時計を止めた。ピタリと止むと、部屋はあまりにも静かでまだ夢の中にでもいる錯覚にさえ陥る。

…それから少しの時間が立った。彼はやっと覚めた目を擦りながらベッドから起き上がる。少しの伸びとともに欠伸。時間を見ると6時半だ。まだ夢の続きを見たいところではあるが彼は高等学校の教師をしている、遅刻などは許されないのだ。ゆったりとした足取りで洗面台へ。歯磨き粉をつけすぎた歯ブラシを口に入れ、カラいと言いながら髪をセット。

「ん、そろそろ起こさないとか」

歯磨きも終わり、朝食を作りながら彼は時計をみた。いつの間にか7時過ぎだ。彼はおもむろに携帯を取り出すと誰かに電話をかける。何コールかのうち、やがて通話は切断される。それを確認しながら携帯を閉じ、今出来たばかりのフレンチコートを片手にテーブルへ。いただきます、と手を合わせると同時に携帯が鳴った。

「もしもし」
『おはようカイト。いつもありがとう』
「おはよう風也。ちゃんと起きれたようで良かった」

電話越しに聞こえて来た声に、彼は思わず微笑む。風也とは、彼の恋人だ。年は十も離れていて、一応彼が通う学校の生徒でもある。風也は寝起きが悪いらしく、遅刻してくることも多い。それではいけないと思った彼が、モーニングコールをすることにしたのだ。そしたら今までのことが嘘のように風也は遅刻せず学校に来ている。

「今日、夢の中で綺麗な少年と会ったんだ。触れたいと思ったが、触れられなくてな…」
『なにそれ浮気?』
「馬鹿言うな。俺には風也がいる」
『えへへー』
「今思えば、その少年ってのは風也だったのかもな」
『なんで?』

彼はそこでうーん、と悩んでしまった。たぶん、あれは、自分と彼が出会った時の気持ちに似ていた、風也を始めてみたとき、こんなにも美しい少年が居たのかと息を飲んだ。目があえば石にされてもいいとさえ思えた。微笑む姿を何時間も見ていたいと思った。あの声で、自分の名前を呼んで欲しいと思った。恋をした瞬間、それがなんとなく、似ていたのだ。
彼は口ごもる。素直じゃない。それを口に出すのがなんとも恥ずかしい。返事をしない彼に、風也は不思議そうに名前を呼んだ。

「すまない、ぼーっとしていた」
『もーしっかりしてね』
「ああ」
『それで?なんで僕だと思ったの?』
「…なんとなくだ」
『えー!なにかある、絶対なにかある!』
「なにもないぞ。っと、ほら、もう家出る時間だろ」

答えを聞きたそうにしている風也をなだめながら彼はスーツを着る。ねえ、どうしてー、カイトー?と愛らしい声に彼はぐっと拳を握りながら返事をした。


「お前を愛してるからだ」

なんとも恥ずかしい台詞を、よく口に出せたものだと思いながら電話を切る。ふと近くにある鏡を見ると、なんとも情けない顔をしていた。顔は真っ赤だし、でも少しニヤッてしていて。学校までポーカーフェイスでいられるだろうか。彼はしきりなおして家を出た。ふと携帯が鳴る。風也からメールだ。本文を開いた瞬間、彼はその場で立ち止まった。ああ、やばい、、


『僕も愛してるよ!』


これじゃあ学校になんて、いけるわけないだろう!




恋愛ロジック
(カイトなんで学校休んだの?)
(ちょっと熱が、)





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