小説 | ナノ


 12



『えー、ただいま、ヨハンさんが搬送されたと見られる病院には次々と人気デュエリストの皆さんが見舞いに来られています』

テレビに淡々と映し出されるテロップには見舞いに来たデュエリストの名前と映像が映し出される。はじめに来たのはエド。次に万丈目と映し出され、友人のジムなども映し出されている。そして病院から出て来たエドに質問の嵐が降り注いでいる映像に切り替わると、彼は酷く困った顔をして「やつは簡単には死にませんから」と告げて報道陣から去っていく。

「ジュースだ」
「あ、ありがとうございます…」

そんな映像をジッと見つめていた遊馬の元に遊星がジュースの入ったコップを置く。凌牙の前にも置いて、同じようにテレビに食い入った。

「…あんまりすり寄るなよ」
「え?あ、ごめん…なんか…怖くて…」

気付かぬうちに凌牙の方へ身体を寄せていたようで、鬱陶しそうに遊馬を払いのけるものの震える彼を見るとキツい言葉も言ってやれずにただテレビを見た。

「…ヨハンさん…」

弱々しく呟く遊馬の声を耳に、凌牙も瞳を閉じた。

(……死ぬんじゃねーぞ)





マネージャーから指摘された病院近く。暗い道は報道陣によって明るく照らされており、十人以上もいる。十代は恐れることなく歩くと一人のレポーターが十代に気付き、案の定、囲まれた。

「遊城さん!親友のヨハンさんの事を聞かれどうでしたか!?」
「ビックリしています…」
「あの葛原容疑者とは高校の同級生だったとか」

レポーター達の内心を抉るような言葉に耳を塞ぎたくなった。飛び交う質問を交わしながら報道陣の中を抜けて病院の中に急ぐ。中にはマネージャーが待っており、ヨハンがいる部屋へと案内させられる。

「…ヨハン、」

薄いカーテンの向こうには、酸素ボンベを口にしているヨハンがぐったりとした様子でベッドに横たわっていた。

「ヨハン…ヨハン…!」

十代の必死な呼びかけはヨハンには届かず、機械音と一緒になってかき消される。マネージャーから刺された時の状況を聞くと、どうやらいつものように帰ろうとテレビ局を抜け、タクシーを拾おうとした時にフードを被った男に刺されたのだという。目撃者が顔は葛原学にそっくりであったということ。刃先が二十センチ以上もあった包丁で腹部をひとつきだったらしい。

「くず…はら……」
「葛原と何か関係が?」
「あったのは確かです……でも、ヨハンは何もしていない…」

ヨハンは葛原とは良い友人で居た。なのに何故、ヨハンをこんな目に遭わす必要があったのか。…そこでふと、最初の被害者であった童実野中学の生徒を思い出した。いずれにせよ自分に近いものでは無いだろうか。童実野中学は凌牙と遊馬が通う学校だ。童実野中学には行ったことがあったしそこを見られていれば関係があるのは丸わかりだ。そして一番大切な恋人。ヨハンと恋仲だったのは高校でも知っていたはずだ。

「はは…まさ、か…な」
「どうしたんだ?」
「い、いえ…」

もしこの解釈が当たっていれば、次に狙われるのは遊馬か凌牙、それか遊星だ。なんだか怖くなってきた十代は一度病室を出て自宅に電話を入れた。

『はい、』
「もしもし、遊星か?」
『十代さん!病室には無事着いたようですね』
「ああ、ヨハンはまだ眠ってる…」
『そうですか…』
「それでなんだが、誰かがチャイムを鳴らしても絶対に出ないでくれ」

電話越しでも、遊星が困惑したのが分かる。

「電話もこれっきり出なくて良い。むしろ回線を切ってくれ」
『十代さん…?何かあったんですか?』

遊星のその質問に「まだ言えない」と言うと周りのドアが閉まってるかの確認と、明日は遊馬と凌牙を学校に向かわせないで欲しいこと、自分も明日まで家に帰らないことを伝える。遊星は何も言わずに頷いてくれた。

『分かりました。ご飯食べてないんですから、きちんと食べてくださいね』
「ああ…ありがとう」

良い後輩を持ったなぁ、としみじみ思いながら携帯の電源を切り病室に入る。

「遊城くん、行くのかい?」
「いえ、明日の朝まで見守るつもりです。色々と忙しいのでしょう?ヨハンのことは俺に任せて休んでください」
「でも…」
「大丈夫ですよ。それにヨハンを一番近くで見守ってやりたいんです…」

まるで愛おしい人を見るかのような優しい表情に、マネージャーは小さく驚くと「わかったよ」と鞄を手に取った。

「ヨハンも、こんな優しい恋人を持てて幸せだ」
「えっ…」
「だいじょーぶだよ。君たちの仲は薄々気付いていたし。…あとは頼んだよ」
「はい」

片手をあげ出ていった彼を見送り、近くにあった椅子に座る。未だに生死の淵をさ迷うヨハンの手を強く握ると、願うように瞳を閉じた。




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