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 破れない約束



ずるいじゃないか。と彼は呟いた。ごめんな。て言うと、彼は無言を決め込んだ。
夕日が眩しくて、直視できやしない。

「ずっと、約束したのに」
「…ごめん。親の用事で」
「もういい!ヨハンなんか嫌いだ!」

ヒラヒラと揺れるネクタイ。
十代はオレに背を向けて走って行った。追いかけようとしても、足が動かなくて。だから、十代の姿が見えなくなるまで見送った。
オレは明日、親の都合で引っ越すことになった。十代には、同じ高校に通うって話もして、ずっと一緒だって話もした。だけどそれも叶わない。

(ごめん、十代)


「まもなく一番線に…」

電車の出発を知らせるアナウンスが響いた。振り返っても、十代の姿はなくて。親と急いで改札をくぐると、「ヨハン!」て叫ぶ声に、反射的に振り返る。
十代だ。

「十代…」
「オレ、待ってるから!ヨハンが帰ってくんの、ずっと待ってるから!だから、絶対にこっちに帰って来いよ!」

両親が急かすように、オレの腕を引く。息切れな十代の目は、透明な雫でいっぱいで、ああ、もう、ばかだな。

「必ず、会いに行く!だから!待っててくれ、十代!」

そんな返事をしたら、とうとう涙は頬を伝って落ちた。それから優しく笑って「おう!」なんて手を上げた。
その約束だけは、必ず守るから。


そうして、五年後。別れの話をした場所に彼は居た。あの日みたいに、涙いっぱいためて、手を広げた。

「おかえり!」


破れない約束
(ただいま!)
(そう言って彼に抱きついた)



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