小説 | ナノ


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夜の静寂に包まれた家の中、テレビは先ほどから葛原の事ばかりをやっており、今も逃走している彼を警察は追っているようだ。思いがけない過去と直面してしまった十代は、現実から目を逸らそうと久々に遊星とデュエルをしていた。キッチンには鍋からグツグツと煮込んでおり、あとはヨハンが帰ってくればすぐに夕飯の準備が出来るようになっている。

「ネオスでダイレクトアタック!」
「くっ……負けました。さすがです」
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ」

デュエルの勝敗は十代の勝ち。お決まりの決め台詞と手を突き出すポーズをしてからデッキを纏める。そんな白熱したデュエルを遊馬は口を開けて見つめていた。

「お、俺にはついて行けなかった…」
「お前…本当に馬鹿だな」
「馬鹿じゃねーよ!」

遊星と十代の横で喧嘩をし出す二人を眺めながら時計を見やる。もう七時をとっくに回っていて、そろそろヨハンが帰って来ても良い時刻だ。遅くなるときはいつも連絡を入れるのに今日に限ってない。

「……、先に夕飯食べるか」
「え、でも…」
「ヨハンが帰って来たら俺も食べるし、先に食べててくれ。お腹空いただろ?」

遊馬は首を振ろうとしたが、お腹の虫はわざとらしく鳴ってみせた。十代は笑って台所に立つと、今夜の夕飯の支度を始めた。

「十代さんは良いんですか?」
「ああ。まだお腹空いてないし」

素早く準備をし、三人分のビーフシチューを用意する。隣にはパンが置いてあり良い匂いを放っている。
遊馬たちは手を合わせ、頂きますというとスプーンを手に取った。

「やっぱ十代さんはすげぇや!俺も早く強くなって、十代さんに一勝は取りたい!」
「俺さえ倒せない奴が何抜かしてやがる。何年かかっても無理だな」
「何をー!絶対にお前から一勝取ってやるからな!」
「こら遊馬、スプーンを人に向けない」

デュエルを純粋に楽しんでいる遊馬は、これからだってドンドン強くなって行くだろう。それを隣でみるのは楽しみだと思いつつ、遊馬が向けたスプーンを下ろさせる。
三十分もすると三人とも綺麗に完食をし、皿を片付ける。

「……遅いですね、ヨハンさん」
「そうだな…」

時刻は既に八時をさそうとしている。いい加減帰ってきても良い頃だが、まだ玄関からの音はしない。落ち着き無く時計を眺めていると、ふいにテレビから緊急ニュースとして画面がバラエティーからニュースへと切り替わる。そこには慌ただしい様子のアナウンサーが手元にある紙を見つめた。

『えー、ただいま、速報が入りました。午後七時頃、帰宅しようとした人気デュエリスト、ヨハン・アンデルセンさんが、何者かに腹部を刺され、重体のようです!』

パリィン、と何かが割れる音に遊馬と凌牙は視線をテレビからキッチンへ向けた。そこには皿を洗おうとした十代が、ひどく驚いた顔をして手を震わせていた。

『目撃情報によると、刺したとみられる犯人は葛原容疑者と見られ、警察が調査を進めている模様です。えー、今、ヨハンさんは病院に搬送されたものの意識はまだ無いということです。繰り返します、』

アナウンサーがもう一度、ヨハンのことを伝える。帰って来ないことに不安を抱いていたが見事的中。十代は頭が真っ白のまま、リビングを飛び出した。

「十代さん!待ってください!」

なりふり構わずに外に行こうとする彼を遊星が止める。何処の病院に居るかも分からないし、きっと行っても報道陣が多くて無闇な行動は避けた方が良い。きっと仲が良いと言われる十代の元にもマネージャーから電話がくるはずだ。それを待った方が良いと冷静に言うと十代は首を振った。

「ヨハンが!ヨハンが、死んじゃうかもしれない!俺が行かないと、俺っ、俺が、」
「落ち着いてください、十代さん!」
「落ち着いてられるか!!今もこうしてる間にヨハンは生死をさ迷ってる!俺………あ、」

珍しく声を張り上げる十代が、ハッと視界を上げると不安そうに見つめる遊馬と凌牙が見えた。自分が混乱していては二人はもっと混乱してしまう。今にも泣き出しそうな遊馬は「ヨハンさん…」と小さくもらして俯いた。

「っ……ヨハン…」

遊星の腕にすがりつくようにその場に崩れた十代は、涙で滲む視界で小さくヨハンの名を呼んだ。





遊馬は先ほどからソワソワした様子でソファーに座ってテレビを見ていた。相変わらずニュースではヨハンが刺されたことを報じてはいるが、未だにちゃんとした内容が流れてはきていない。手を組み合わせ、無事を祈る遊馬の隣、凌牙はただテレビと睨めっこを繰り返すだけだ。
そんな中、十代の携帯が大きく震える。どうやら相手はマネージャーのようだ。

「もしもし?」
『遊城くんかい?もうテレビで知ってるとは思うけどヨハンが…』
「ええ、知ってます。で、ヨハンは?」

電話越しから小さなため息が聞こえ、「まだ目を覚まさない」と気まずそうに告げた。

「ヨハンは何処の病院に?」
『ああ、病院は…』

マネージャーから病院先を聞くと電話を切り、すぐに近くにあった車のキーを手に取る。

「十代さん!」
「やっぱりヨハンの様子見てくる。報道陣なんて親友の見舞いだと思うだろ?遊星は遊馬たちを頼む」

先ほどよりは冷静にはなっているようだが、やはり止めても行くだろうと言うのは遊星は察していたので呆れたように笑うと「気をつけてください」と彼を見送った。

「十代さん…大丈夫かな…」
「大丈夫だ、十代さんなら」

不安を残したまま、部屋は何処か寒く感じられた。




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