小説 | ナノ


 09



※ちょっと酷いです。強姦要素があります。

髪を掴まれ、そのままズルズルと引きずられるように倉庫へと移動した。それからは一方的な暴行であった。いくらでも十代は反撃が出来たのだが、葛原に出来ない理由は脅しだ。「もし他の奴に喋ったら、ヨハンは殺す」と。葛原の目は本気だった。本気で誰かを殺せる冷たい表情をして、十代は愛しい人を守るために、葛原の言いなりになる。初めは単に身体に拳を入れるだけだったのだが、やがては首を絞め、ナイフで傷つけ始めた。そして十代の精神を崩壊させた決定的な決め手は『強姦』。嫌がる十代を無視して、慣らしもしない中へと無理やり入れた。

「ヨハンとはしたのか?ん?」
「し…っ」
「お前は俺の……俺のだ!!!」

最中も無慈悲な言動。
ドンドンと心の中で恐怖が全身を駆けめぐる。このことを、もしヨハンに話したところで傷つけてしまうだろう。十代はこの責め苦に耐えるしか無かった。
それからは、放課後までは明るい自分を気取った。しかし放課後になるにつれ、恐怖が押し寄せて身体を震わす。

「十代?どうかしたか?」
「え、あ…いや、寒くて」
「大丈夫か?」「平気平気」

ヨハンのこの笑顔だけは守りたい。その一心だった。足先は恐怖を纏う体育館に。そこで十代は一週間に渡り、暴力と強姦をされ続けた。
だが、一週間経ったある日、葛原が小学生の女の子を強姦したといって警察に捕まった。他にも十代と同じやり方で、何人かの中学生などにも脅して、強姦をしていたというのが発覚した。十代は解放された喜びもあったが、この一週間でぽっかりと空いた穴は埋まることは無かった。結局、ヨハンには十年近く隠し続けている。

(怖い……怖い怖い)

タクシーに揺られ三十分。自宅に到着すると慌てて家の中に駆け込む。それから自分の息が上がっているのに気付き、深呼吸を繰り返す。

「あれ?早かったですね…て、大丈夫ですか」
「え、ああ…だ、大丈夫」

リビングから遊星が出迎えてくれたが、十代の様子がおかしいのに気付いて声をかける。
少し呼吸が落ち着いて、十代は靴を脱ぐとリビングに向かう。そこには凌牙と遊馬がデュエルをしているようだ。

「あ、おかえりなさい!」
「ただいま。凌牙、デュエル出来たんだな」
「聞いてくださいよー。デュエルめちゃくちゃ強いんですコイツっ」

七回中、七回とも負けたらしい遊馬が唇を噛み締めて「もう一度デュエルだ!」とデッキをシャッフルする。呆れたように自分もシャッフルしだす凌牙に、きちんと付き合ってあげているのだと安心する。

「買い物はして来なかったんですね」
「え、あ、あぁ。久々に遊星の顔みたかったし、明日でも間に合うし」

なるべく、遊馬たちの前では心配をかけるような真似はしたくない。話を逸らすように「そいや私服ありがとうな」と笑顔になる。

「あー、でも何枚かは貰って良いぜ?服とか買っちゃったし」
「ヨハンさんのは入るんですが、十代さんのが…」
「おいコラ、俺が小さいとでも言いたいのか」

正直、小柄な十代はMサイズで充分で、服によってはMサイズでもブカブカな時がある。遊馬もMサイズなので、余計に華奢なイメージがつくだろう。十代が着なくなった洋服は、いつも遊馬が貰っているぐらいだ。

「あ、遊星さーん!遊星さんもデュエルやろうぜ!」
「ああ。受けて立とう」
「よっしゃ!今度こそ負けないぜ」

すっかり遊馬も遊星に慣れ、凌牙が席をどくとそこに今度は遊星が座る。「かっとビングだあ!」と気合いを込めて二人のデュエルが始まった。それを眺めながら、手洗いうがいを済ませて、暖かいコーヒーを淹れる。

「ふう」

凌牙の隣に座ると、コーヒーを一口飲んで息を吐く。先ほどの出来事をかき消すように、凌牙に「傷は痛むか?」と声をかける。どうやら痛みは引いたようだ。

「……」

十代の中で、葛原と再び再会した事で、また街中で出会うんでは無いかという恐怖に襲われていた。そうしたら今度は逃げられる保証がない。
だがヨハンにだけは、いや、ヨハンだけではない、凌牙や遊馬や遊星に心配だけはかけないよう、このことは隠し通さなければならない。

(大丈夫。あいつは過去の人間)

この幸せな家庭を、壊すわけにはいかないのだ。




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