小説 | ナノ


 08



気付けば夕日が地平線に沈んでいく。買い物もしたかったし、近くのデパートの前で下りた十代は家に電話をすると、出たのは凌牙や遊馬ではなく、遊星で。私服を届けに来たと聞いて、一年ほど前に取りに行くと言って結局行けなかったのを思い出した。
とりあえず、買い物をして帰るから、家に着くのは8時前になるということを伝えて電源を切った。

「さて、と」

何を買おうかな、と携帯を鞄にしまうと、デパートの入り口前で待ち合わせかで集まる人混みの中、壁に寄りかかってフードを被る青年に目がいった。

(あれ…、は)

フードから覗く冷たい瞳。
一瞬にして背筋が凍るような気がした。高校の時の苦い思い出が脳裏に蘇る。足がすくんで動けなくなる。

「っ、」

男がこちらに気付いた様子で壁から離れる。それと同時に十代は駆け出した。人混みをかき分け、後ろを気にする暇もなく。
裏路地へと逃げ込んだとき、誰かに真っ正面からぶつかってしまう。

「す、すいませ…」
「やあ…久しぶりだな。遊城」

その低いアルトの声に、一瞬にして十代は固まる。それから恐る恐る顔を見上げるとダークブルーの冷たい瞳がこちらを見下ろしていた。逃げようと振り返るも、男に腕を強く掴まれては逃げることは不可能。

「冷たいな。高校ぶりか?」
「そうだな…」
「相変わらず可愛いな。思わずいじめたくなっちまう」

耳元で舐めるように囁かれ、十代は暴れる。振り上げた腕は掴まれ、両手を塞がれるも、思いっきり右足を突き出して男の鳩尾を蹴る。途端に呻いてふいに解けた手に、ここぞとばかりに裏路地から脱出する。

(嘘だろ…こんなとこで…っ)

夏でもないのに、汗が頬を伝う。
急いでタクシーに乗り込んで自宅へ向かう。手が震えているのが嫌でもわかる。何も考えたくない、と強く拳を握った。




それはまだ十代とヨハンが高校三年の時のことだ。近場で適当な高校を選んだ結果、そこは喧嘩ばかりの不良高校で、楽しい三年間というのは送れなかったと言って良いだろう。毎日のように喧嘩に明け暮れ、他校との喧嘩に巻き込まれたりした。
そんな中、十代がヨハンが隣のクラスの奴らに呼び出しをされ、大人しく教室で待っていると、誰か別の男が入ってきた。

「あれ。遊城か」
「えーっと…」
「ああ、俺はこのクラスの葛原」

この葛原という男は、どことなく優しくて頼りがいがあった。なんとなく話していくうちに良く連む親友ぐらいになり、一緒に喧嘩したりと共に乗り越える同志になったのだ。しかし、彼には表とは別に異常なぐらい十代を愛していた。

「十代…最近、なんだかヨハンと凄く仲が良いよな」
「え?ああ。まあ…色々あって」

頬を赤らめていう彼に、二人の間に何があったのか察したのだろう。

「なあ。今日の放課後、どうしても話しておきたい事があるんだ。授業終わったら、体育館に来てくれないか?」
「ああ!わかったぜ」

葛原の思惑など知らない十代は、素直に頷いてみせると「じゃあ放課後な」と手をふって教室に戻っていく。

それから放課後になり、ヨハンには先に帰ってくれと伝えると体育館へ向かう。そこには既に葛原がいて、笑って十代のそばによる。

「悪いな。呼び出して」
「いや?全然構わないぜ」

で、話したいことって?と本題を突きつけると、葛原は笑顔ままでいきなり十代の髪を掴むと、そのまま床へと叩きつけた。

「いっ…いた…何すっ」
「なあ十代…俺は十代が好きだぜ…だけどさ…なんだよ…ヨハンのモノなのか」
「葛原…?」

馬乗りになり、動きを封じると、冷めた瞳が十代を見下ろす。何か冷気さえ感じさせる表情や視線。脳では危ない、と警報しているのに身体は動けなかった。

「十代は、俺のモノだ…!」

それから十代を追い詰める地獄が始まったのだった。




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