小説 | ナノ


 スターダスト



誰も居ないはずの庭。今日という日、彼はやってくる。

「よっ」
「十代!」
「何してるんだ?」
「笹に願い事を飾ってるんだよ」

十代は毎年、この日になると顔を出しに来てくれる。一昨年ぐらい、誰もいないはずの庭から突然現れて、「暇だから来た」なんてオレと初対面なはずなのに、図々しくやってきた。
幽霊か何かだと思った。いや、たぶんそうなんだと思う。成仏も出来ずにさ迷ってるなんて可哀想だ。

「ヨハンは何て願い事した?」
「んー?内緒」
「んだよーケチ」
「そういう十代は?」
「…オレは、願わない」
「なんで」
「叶っちゃだめだから」

それって、叶ったら消えちゃうから?

「綺麗だなー」
「うん」
「なあ、十代」
「うん?」
「お前は、何処にいるんだ?」

ぼう、とした顔。
目線をオレに向けて、空を指差す。

「あそこのどれか」

星か。そっか。
笑って誤魔化して、庭で花火した。
バチバチ弾ける。明滅する世界。
なあ十代。オレの願い事さ。

「ずっと一緒なら良いな」

なんて、ベタなお願い事。
十代は笑って「実はオレも、そうお願いした」て言った。同じじゃん。

「でも、十代は願い叶っちゃだめなんだろ?」
「うん。でもこれぐらい、叶えてくれたって良いと思う」
「オレも、そー思う」

線香花火して、バケツの中いっぱいの花火が満タンになるぐらい遊んで。
そしたら十代が、「もう行かなくちゃ」て立ち上がった。

「もう行くのか…」
「もう行く。もう、逝かなくちゃ」
「なんで?」
「願い事、したから?」
「しなきゃ良かった」
「そーだな」

ぽつ、ぽつ。
雨が降ってきた、て思って顔を上げたら、十代が泣いてた。

「嫌だな。ヨハンと離れたくない」
「オレだって」
「これ、今お願いしても無理?」
「どうだろ?」
「なあヨハン、ずっと好き?」
「ああ。もちろん」
「そっか」

あ、ヤバいオレも泣きそうだ。
手を伸ばしたら、アレ。十代に触れらんないや。

「じゃあな」
「また来年」
「おう、また来年」

泣きながら笑う。
だからオレも笑って、見送った。
さらさらと笹が揺れた。
色とりどりの紙は風に揺られ音を立てる。
空を見たら、ほら、一番輝く星をみっけた。天の川のすぐ近くに。

ああ、これってまるで。
彦星様と織り姫様みたいだ。


スターダスト


(彦星様、織り姫様)
(何故だか貴方たちが羨ましいです)



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