小説 | ナノ


 06



カタカタカタ、とまな板と包丁が立てる規則正しい音に、隣では野菜などを焼いているフライパンの音。遊馬と凌牙は向かい合わせに座って、ただ呆然と先ほど来た来客の世話になっていた。
先ほど、玄関先にいた青年は、十代の知り合いらしく、彼に渡したいものがあると言って家に上がっている。何度か来たことあるのか、手慣れた感じで料理や掃除を済ませている。名を聞いたら、不動遊星だと笑って答えた。少しすると二人の前にチャーハンとスープが置かれる。

「こんなものですまない」
「い、いえっ!頂きます…」

手を合わせ、ご飯を口にする。味は何だか母の味を思い出すような、暖かい味だ。お袋の味、というものだろうか。
遊星はラフなパーカー姿で、ソファーに座る。

「遊星さんって、十代さんたちの友人?」
「まあ…そうだな。二人は高校の先輩なんだ」

一瞬にして、遊馬と凌牙の頭には喧嘩ばかりしていた不良高校が頭をよぎった。彼もその高校の一生徒だったということは、喧嘩ばかりして来たのだろうか。

「そういえば渡したいものって?」
「掃除してたら、二人の私服とか出てきたから届けに来たんだ」

二人がデビュー当時、家に帰る暇が無いくらいに忙しい時期があった。テレビ局近くに遊星の家があったので、毎回二人してお邪魔していたのだという。仕事も安定して来た頃、洋服を取りに行くと言ってもう一年近くになるらしい。

「二人は?」
「あ、俺は隣に住んでいる九十九遊馬って言います!うち、両親とか居ないから二人にお世話になってるんだ。こっちは凌牙。この間から二人の家族になったんです」

凌牙は答えないだろうと、代わりに遊馬が紹介すると、不服なのか遊馬を睨みつける。

「家族じゃねー」
「家族だろ!」

未だに家族だと言うことを認めていない凌牙。結局、家族というのはママゴトでしか無いことを思い知らされている彼には、どうしてもこの暖かい環境には慣れなかった。

「つか、いちいち俺にかまうな」
「良いだろ!別に」
「鬱陶しい。好きでもねーくせに」
「俺は好きだ!」

テーブルを叩いて乗り出すように立ち上がった遊馬に、凌牙は数回瞬きを繰り返す。それから我に返った遊馬が、自分が何を言ったのか理解して顔を林檎のように真っ赤にさせた。

「ち、ちが…」
「何がだよ…」
「う…うっせー!違うったら違う!あー一旦家帰る!」

恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしながら走ってリビングを出て玄関に飛び出した。暫く去って行ったドアをみてポツリ。

「外出禁止じゃねーのかよ」

空になった皿の中、スプーンが音を立てて回っていた。






インタビューを終え、運が悪いことにバラエティー番組のディレクターに捕まって渋々と言った様子でセットの上にあがる。

「今日はどうしたんですか?」
「あ、いや、隣のスタジオでインタビュー受けてて…」

そのまま帰るつもりが…と苦笑いを浮かべると、ソファーに座るように促される。せっかくだから、と何故かヨハンの隣に誘導されてしまった。

「さて、ヨハンさん!さっきの質問をご本人の前で、真相を語ってください」

手を差し出され、思わず互いに見つめ合う。それだけで客席からは声が上がる。

「いや、もちろん恋愛とかの意味じゃなくて、単純に好きだって事ですよ?」
「ほんまかー?」
「ほんまですって」

そのまま関西弁で返事するヨハンに笑いが包まれる。それからその質問は十代にも振られた。

「遊城くんは?」
「え、あ、好きですよ。彼のデュエルとか…」
「その生返事はなんやー?」
「怪しいぞー」

お笑い芸人だから仕方ないとは言え、さすがにこれ以上はボロが出そうで怖い。早々に話を切り上げて欲しいのだが、前に一度、雑誌で二人は付き合っているという話があるので、簡単には引き下がってくれないようだ。

「他にも、ヨハンさん宛ての質問はほぼ大半が、遊城くんとの事なんですよ。デュエルはどっちが強いですか、とか、二人で旅行行ったりしますかって」

テレビでもデュエルでも、周りからは大親友という定着が湧いているのだろう。何処の番組にも一緒に出ていたし、ある意味コンビとして出ているような感じだ。

「やっぱり二人には只ならぬ理由がありそうだって事ですね」

なくていいよ、と内心うんざりしながらも「そういう仲じゃない」と否定を続ける。

「まあ、十代とは恋人未満親友以上…って感じですかね?」
「はは、そうかもな」

何とかその場は、恋人未満親友以上ということで事は済み、十代も用事があると言ってスタジオを後にした。とんだある意味トラブルに巻き込まれたおかげで、気がつけば二時半を過ぎている。遊馬たちを気にかけながらも、急いでタクシーへと乗り込んだ。
たまたまラジオではなく流れていたのが先ほどの番組で、まだヨハンに色々と話を聞いてるようだ。

『じゃ、最後に遊城くんに向かって愛の一言を』
『え、何でですかっ』
『毎日、言ってるんやろ?他の女性とかにもー』
『いやいや言ってないですからね!?』

司会者に無茶ぶりをさせられているようで、慌てているヨハンが何だか可愛らしくて思わず笑みがこぼれた。そして咳払いをすると、何故か良い声で。

『十代、愛してるよ』

と、いうものだからたまったもんじゃない。頬が紅潮していくのを感じながら、流れるステレオから先ほどよりも倍の悲鳴やらがあがる。

『も、もう良いですよね?俺どうしよう、明日から十代に会えないかもしれない』
『明日も会う約束したんかー』
『そういう意味じゃなくて!』

相変わらず、芸人たちに振り回されるヨハンを耳に、十代はゆっくりと震える手をステレオに向けて伸ばす。それから小さな声で、

「…変えて、貰えますか」
「はいよー」

運転手には気付かれていないらしい。
帰ったら合わす顔が無いかもしれないな、と、とりあえずこの赤みをどうするか家に着くまで悩みの種になってしまった。




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