小説 | ナノ


 05



身体が鉛のように動かなかった。時刻は既に七時半。けたたましくなるアラームを止めて三十分は経っている。遊馬は暫く天井と睨めっこ。昨日からヨハンたちの家に泊まっているのだが、十代が起こしに来るわけではなく、隣の部屋の凌牙が動いた気配はない。暫く寝返りをうつと、また睡魔に襲われてそのまま目を閉じた。

次に遊馬が起きたのは九時半。二度寝をしてから二時間程しか経っていない。凌牙はまだ起きていないのか、それとも起きているのか分からないが、相変わらず隣の部屋からは何も聞こえて来ない。なんだかこのまま寝るのも悪いと思い、まだ痛む身体に鞭を打って起き上がる。冷たいフローリングに素足を乗せ、一階にあるリビングのドアを開けた。

「おはよう、具合はどうだ?」
「おはようございます。昨日よりは全然良いです」

キッチンで洗い物をしている十代に挨拶を済ませると、ソファーへとゆっくり座った。凌牙は先に起きていたようで、椅子に座りながら包帯を腕に巻いている。ヨハンは仕事だろうか、姿は見えない。

「まだ痛いだろ?学校には連絡しといたから、今日は休んどけ」
「あ、はい…」

昨日の大喧嘩の後に学校では、さすがに苦しいだろうと、朝に連絡を入れた。担任は「また何かしたんですか?」とか言って居たが、そこは軽く無視をした。

「さて、と。悪い、俺はちょっとテレビ局行くから、後は頼んで良いか?」
「良いですよ。復帰するんですか?」
「違う違う。ちょっとインタビューぐらい撮らせてくれってさ。昼過ぎぐらいには帰るから」

掃除と炊事を任された遊馬は、十代の指示に頷く。昼ご飯は時間が無くて作れなかったので、冷蔵庫にある食材を使って自由に作っていいとのこと。万が一、夕方までかかりそうだったら電話をいれるとのこと。

「あと外出禁止な?火元は気をつけること。じゃあ悪いが行ってくる」
「行ってらっしゃい」

慌ただしくジャケットを羽織ると、飛び出すようにリビングを出て行った。タクシーを呼んでいたのか、車が家の前を通り過ぎて行く音がした。

「……」
「……そ、掃除しよっと…」

昨日の今日では、まだ気まずいのかいたたまれなくなった遊馬が、ほうきがかけてあるキッチンに向かう。それから何か会話するわけでなく、ただ互いに黙々と作業をするだけ。どちらかといえば、凌牙はその辺に散らばった新聞や雑誌をまとめ、遊馬が掃き掃除という勝手な役割で進めていると、家のチャイムが鳴った。家の者が留守な時に出て良いか凄く迷ったが、何か大事なものだったら大変なので遊馬はほうきを椅子に立てかけ、玄関に向かった。

「はーい」

がちゃり、と音を立てて開いた扉には、見知らぬ青年が立っていた。





その頃、スタジオでインタビューを受けていた十代は、内心疲れながらもアナウンサーの質問に的確に答えていた。

「一時休止との事ですが、復帰の見込みなどは?」
「まだありませんね…」
「そうですか。最近、大親友のヨハンさんとは何か面白いことは?」
「面白いこと…毎回、彼が運転すると言って出かけると、目的地になかなか着かないんですよね」

昨日も薬局行くのにスーパーの方行ってたし、とつい最近の事を思い出して、少しばかり笑みが零れてしまう。

「ヨハンさんとの出会いのきっかけとかはなんですか?」
「中学のときに、たまたま俺のクラスに転校して来たのがきっかけですね」
「それでデュエルを?」
「はい」

デビュー当時からそうだったのだが、必ずインタビューを受けたりテレビで質問されると、お互いのことを質問される。十代にはヨハンのことを。そしてヨハンには十代のことを。一緒に入った同期としてからか、やたらと話題には互いの名前がでてくることが多い。
インタビューは三十分程で終わり、カメラマンやスタッフなどが話し合っているのを見ながら「お疲れ様です」と声をかけてスタジオを後にする。

「あ、」

少し行った別のスタジオには、今日ヨハンが生放送している番組名が張ってあり、少しばかり気になってスタジオの中を覗いてみた。バラエティー番組のようで、俳優やお笑い芸人などがソファーに座って色々な視聴者の話に答えていくというものだった。スタッフにバレないように、客席の裏側で様子をみる。

「えーさて、次の視聴者からの質問です。お、ヨハンさん宛てですねぇ」

客席から女性の悲鳴が轟く。

「うわ、なんやこの差!」
「さっき俺らん時、こんな悲鳴なかったぞ!」

すかさずお笑い芸人が声を張ると、今度は客席が笑いに包まれた。さすが慣れているなあ、と思いながら質問の内容を聞く。

「…ぷ、これ良いんか?ほんまに?」

質問の内容をみた司会が何やら意味深けにディレクターを見つめたが、頷いているだけ。えー、と軽く咳払いをすると書かれている言葉を口にした。

「えー、『ヨハンさんは、遊城十代さんが好きなんですか』とのことです」

またもや女性が黄色い声をあげる。それに驚いたのは出演者だけでなく、出入り口付近にいた十代も同じだ。

「さーお答えくださーい」
「好きですよ?」

ヨハンの直球な答えに、会場は少しばかり悲鳴に轟いた。近くにいた十代までもが、口を開きっぱなしだ。きゃーきゃーという声が混じる中、ふいにディレクターがこちらに気付いたようだ。カンペに何か書き出す。ヤバいと思い、出入り口に急ごうとしたとき、司会者の声が遮った。

「え?十代さんが来ている?」

遊馬たちが心配なので、早く帰りたいのだが会場の目がこちらに向けられては出るにも出られない。

「じゃあ、登場して貰いましょう!」

きゃーと言う声に、わーと言う喝采。十代は暫く苦笑いを浮かべてセットの方へ向かった。




芸人活動をしているお二人が書きたかったのです…



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