小説 | ナノ


 僕らの家族物語



母と父は幼い頃に他界した。まだ5歳だった俺は、親戚のたらい回しに遭い、挙げ句には養子として知りもしない家族に引き取られた。中学に上がると、こんな容姿だからか、すぐに喧嘩売られたり、学校では問題児扱いされた。それからヤケになって学校をサボったりしたら、引き取った家族は頭を抱え、また別の近所に俺を預けた。たらい回しにも慣れた頃、次の引き取り手が見つかったらしい。この時の俺は、もうほとんどやさぐれており、もういっそ家出でもしてやろうかと思ってた。次の引き取り手は、この家の友人のまた友人らしく、もう血など繋がらない相手に俺は引き取られるわけだ。家族らは、早く俺を追い出したいのか、明日にはその引き取り手が来るって言っていた。

「元気でいるのよ」
「風邪引くなよ」

毎回、お約束のように言い、俺は冷たい布団の中に入った。

次の日。目を覚ますとリビングの方が騒がしい。引き取り手が来たんだろう。またどんな奴なのか、とりあえずリビングに顔を出すと、俺よりか五歳ぐらい上の男が二人いた。二人とも容姿淡麗。一人は外人なのか、青い髪が良く目立つ。一人は紅茶色をした髪で、ボブに似た髪型をしている。母親と、ここに住む娘は目をハートにさせて二人を見つめている。

「凌牙くん、ほら、この二人が引き取り手の方よ」
「はじめまして」

にこりと笑ったが、どうせまた俺をたらい回しにするのは目に見えていたので、何も返さず支度の準備をしようと部屋に戻った。

「ごめんなさいねぇ、いつもあぁなのよ」
「そうなんですか」
「私らも、たまには顔を見せにいくので」
「私、毎日だっていこうかな!」

女子らはあの二人目当てで通いつめる気なんだろう。お節介にもほどがある。それほど無い荷物をまとめてリビングへ行くと、二人が腰を上げる。

「準備が出来たみたいなので、もういきますね」

青髪が笑う。

「本当に悪いわねぇ」
「良いんですよ。俺たちが決めたことなんで」

リビングから出て、玄関で靴を履くと俺も無言で外に出る。二人は挨拶をしているが、そういうのはやってもしょうがないので空ばかり見上げる。

「では、失礼します」

ゆっくりと戸を閉める二人を見ながら、俺は顔を合わせないようにそっぽを向く。それに何か言うわけでなく、ただ少し困ったように笑って「行こうか」と歩き出す。それに着いていくと、近くに車を止めてあったらしく、乗れと言われて無言でドアを開ける。

「俺が運転するぜ?」
「あー、いや、帰りぐらいは俺がやる」
「そう言ってさっき迷ってただろ?」
「うん」

青髪が運転するのかと思ったが、結局話し合いで茶髪が運転するらしい。後ろから見ると、運転が全く似合わないが、家に着くならなんだって良い。
二人を後ろから見ていて、何かどっかで見たことがあるとは思うがいまいち思い出せない。暫くドアから空を眺めていると、何かを思い出したように二人が声を上げた。

「そういえば名前言って無かったな。俺はヨハン・アンデルセン」
「俺は遊城十代、よろしくな」

青髪の方はやっぱり外人だったようだが、日本語がペラペラだ。
それに、さっきどこかで見たことあると思ったらヨハンって言えば、確かプロデュエリストじゃなかったか。クラスで話題になってたから聞いていた。遊城十代も、ヨハンのタッグデュエルで優勝したとか聞いたな。

「んで、学校は童実野中学だろ?」
「ああ」
「たぶん、あっちの家と通勤時間は同じだと思うぜ」

それはどうでも良い報告だ。どうせ学校なんて遠かろうが近かろうが、変わりない。暫くすると、細い一本道に入り、茶色の一軒家の前で車が止まった。

「よし着いた」

車庫に車を入れてから家の中に入ると、なんだか芸能人らしい少し良い造りになっている。タイルの玄関を越した前に扉があり、開くとキッチンが備わった大きなリビングが目の前に広がる。

「部屋は二階に上がった一番奥だぜ。とりあえずその荷物置いてこいよ」

十代に言われ、少ない荷物を再び持つと二階へと上がる。部屋が3つあり、とりあえず一番奥の部屋を開けると、ベッドに机、タンス、カーペットなどもひいてあって、丁寧にもヒーターまで置いてある。荷物を床に置いてから再びリビングへ行くと、十代はエプロンを着てキッチンに立っており、その前にあるテーブルでヨハンはコーヒーを飲んでいた。

「おかえり。朝から何も食べてないだろ?今から作るから、椅子に座っててくれ」

そう言われ、ヨハンの反対側の椅子に座る。彼は週刊誌を読んでいて、そのページを見てみると『ヨハン・アンデルセン、恋もデュエル?』という文字が大きく書かれている。そういえば、クラスが噂をしていたが、『ヨハン・アンデルセンと遊城十代は付き合っている』というのは本当なんだろうか。この雑誌には、ヨハンの相手はモデルとかで、そのホモ説は水に流された。なんとなく知りたくて、口に出す。

「アンタらは、付き合ってんのか?」

二人は少し驚いたようにこちらを見た。

「この状況が答えだぜ」

ヨハンが十代を見て、ニコリと笑う。これを見て付き合ってないと言える方が逆に凄い。ということは、このモデルの話はでまかせなんだろう。

「あ、凌牙。良いか?門限は7時まで。じゃないと夕飯抜きだからな?どうしても帰って来れない時は家に連絡入れること。それから朝は毎日7時起き」
「……」
「しかめっ面しねーの。家でのルールは守ること。いいな?破ったりしたら」

なんだよ、と眉を寄せると、一瞬だけ十代の後ろに何か恐ろしいもんが出て来た気がする。ヨハンには分かったのか、視線を逸らしている。

「ま、やんちゃもほどほどにな」

それからまた料理に取り込む姿を見ながら、二人から視線を外す。
両親の親戚たちは、嫌な奴らばかりだった。死んだ二人の遺産は全て俺のだったはずなのに、親戚たちは『まだ幼いから』を理由に金を奪った。もちろん、叔父は反対をしていた。大人になったら使うだろう、と。親戚は叔父の言葉を聞き入れず、幼い俺の前で、醜い金の取り合いをしていた。
過去を振り返るのも嫌になり、小さくため息をつくと後ろにあるドアが大きな音を立てて開く。

「ヨハンさん十代さん!」

ドタドタといった様子でリビングに入って来たのは、赤い瞳が良く光る少年で、良く見れば童実野中学の制服を着ている。ネクタイの色が赤ってことは、一年か。

「新しくしたデッキでデュエル……て、あ、あれ…」

相手は俺に気付いたのか、少し遠慮がちに十代のところに歩いていく。

「おう遊馬。もう学校終わりか?」
「今日はテストで半日だったんだ!」
「そうか。あ、初めてだよな。こっちは今日からうちの家族になった神代凌牙」

俺の変わりに挨拶をしてくれたが、別にこいつらの家族になったわけじゃない。少し睨みつけてやると、十代はやはり笑うだけだった。

「俺は九十九遊馬!この家の隣に住んでるぜ」
「それより遊馬、ご飯は食べたか?」
「ま、まだ…」
「ついでだし、食べていけよ」

喜ぶ遊馬は、俺の隣の席に慣れたように座って穴が開くぐらいこちらに視線を送ってきた。

「んだよ」
「え、あー、なんでもない」

そう言って一度視線を外したが、チラチラとこちらを盗み見しているのが、嫌なほど見えてくる。段々とイライラして睨みつけると、俺と同じ方向に顔を向けて固まる。

「っち」
「…あ、あのさ。えと、ありがとう」
「は?」

一体何のことだと眉を寄せれば、逆に驚かれた。

「お、覚えてないのか?」
「なんのことだよ」
「……な、なら良い」

こんなやつ、何処かで会ったかと思考を巡らせてみたが、思い当たる節がない。そもそも、学校の奴なんか余計に覚えているわけがない。廊下ですれ違ったとか、そんなことなのかもしれない。

「あ、ヨハンさん!デュエルバトルの優勝おめでとうございます!」
「お!サンキューっ」
「さすがプロデュエリスト…俺も早く一人前になりてぇなあっ」
「遊馬なら大丈夫だろ!さっそくデュエルしようぜ!」

デュエルバカが二人、意気投合しているのを遠目で見ていると暖かい匂いが鼻を掠めた。

「デュエルする前に、まず腹ごしらえ。腹が減っては戦はできぬってなー。はい」

テーブルに広げられた昼食に、俺の腹の虫も小さく鳴いた。




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