小説 | ナノ


 すきキライ



好きを嫌いと言ってみたり。だけどやっぱりデュエルは嫌いだなんて嘘でも言えないな、と思って遊馬はデッキをフォルダーの中へ閉まった。なら何が好きを嫌いだと言えるだろう。そう考えて、自分の胸元に手を当ててみる。コレなら言える。

「シャークなんか、嫌いだ」

素っ気ないし、口は悪いし、何言っても曖昧にしか言葉をくれない。何処が良いんだと口を開けば、たぶん顔じゃないだろうか。彼は色恋沙汰には興味無さそうだし、ついこの間まで自分もそうだった。デュエルばかりだし、女の子にそういう感情を抱いたことはない。だけど何人かの女子が、彼に好意を抱いているのは知っている。

「先輩って、確かに怖いイメージだけどかっこいいよね!」

そこで少し頷いてしまいそうな自分がいて怖い。確かに凌牙は、ひとつ年上なだけだが周りとは違い大人な雰囲気があって、とてもバイクが似合う。乗ってる姿なんて、そりゃあ羨ましいと思うぐらいカッコイイ。自分にはバイクなんて似合わないから余計にだ。そんな彼女たちの会話を聞いてモヤモヤしていて、思わず枕を叩きたいほど怒りに似た感情が湧き上がってくるのだ。

「な、んだよもう!あーもう!!」
「何してんだ?」
「うわぁあシャーク!?な、なんでここにいるんだよ!」
「なんで…って、学校の廊下にいるからだろ」

正当な事を言う凌牙に、遊馬の心臓はいつもよりバクバクと音を立てて居た。嫌いだと先ほどまで言っていたが、本当に嫌いな奴が目の前にいたら、こんな心臓はバクバクしないだろう。

「えーと…今帰り?」
「ああ。じゃあな」
「あ、ま、待って!一緒に帰ろうぜ!」

横を通り過ぎた凌牙を慌てて止めたかと思ったら、自分でも予想外の言葉を発していた。ハッとしたのも遅く、手を顔の前でふる。

「い、いや!な、なんでもなっ…」
「変な奴だな。帰りたけりゃ、着いてくれば良いだろ」

やはりいつもみたく素っ気なく返される。頬を膨らませて、それでも歩き出した凌牙の後ろをしっかりついて行っている。数歩後ろ。凌牙の背中は大きくて、羨ましいと思う。

「…なあ、シャーク」
「なんだ」
「シャークはさ、好きを嫌いって言ったりするか?」
「なんだいきなり」
「いや、なんとなく」

先ほど、自分が好きを嫌いと言ったわけだが、まだ遊馬の中では嫌いを嫌いと思っている。凌牙は少し考える素振りを見せて、ふいに立ち止まると遊馬をみた。

「しいて言うなら」
「言うなら?」
「俺はテメェが嫌いだ」

それは、どっち…?と思考が巡っているうちに凌牙は歩き出してしまう。それを慌てて追ってから、さっきの言葉を思い出す。
『俺はテメェが嫌いだ』それは、好きを嫌いということに対してか。そうしたなら嫌いの反対で、

(す、き…!?)

いやいやいやいや!と首を大きく左右にふる。でもさっきより鼓動は早くて、思わず目の前にいる彼に抱きつきたくなってしまう。そこをグッと耐え、絞り出すように凌牙の名前を呼んだ。

「俺も、シャークが嫌い」
「そーかよ」
「嫌い、嫌いだ!」

だっ、と凌牙を追い越すと、ふいにこちらに振り返る。地平線へと姿を消す夕日を後ろに、遊馬は真っ赤になりながら愛らしい舌を出す。

「嘘!たぶんシャークが好き!」

そう捨て台詞を吐いて、先を走って行ってしまう。それにため息と同時に笑みが零れる。

「たぶん、って…なんだよ」

笑みが止むと口元を手で塞ぐ。


ああ、お互い顔が真っ赤なのは黙っておこう。

すきキライ




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