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 アララ逃亡劇



乱れ咲いて狂い咲く花びらの螺旋。おいでおいで、手招きするのは真っ赤な唇した花魁さん。「ちょっとそこのお兄さん」「私とどう?」売女のような誘い文句。知らない顔すれば見向きもされなくて、おいでおいで、他人を誘う。

「そこのお兄さん」

また同じ声、残念、別に見向きもしなかったのに。目線で誘うのは美しき花魁。髪をあげる仕草に釘付け。ニコリと微笑む唇。夜の暗闇にとろける甘い香りと、真っ赤な瞳がこちらを捉えるのだ。

「遊ぼうぜ、」
「…名前は?」
「名前なんて聞いたって、すぐに忘れるだろ?」

一夜限りの愛ならば、名など必要などない。だけど、心から魅力されてしまっては逃げ道などなくて。柵越しに腕を伸ばせば、細い指先が絡まる。絡まる、

「なあ、なんだかさ、一夜じゃ物足りない」
「奇遇だな。俺もそう思ってた」
「名前は?」
「凌牙」

良い名前だな、と口元を抑える袖。行くすぎる人々の群れ。止まぬ呼び声。なのにまるでここだけが時を止まったかのようだ。
花魁はニコニコと笑って唇に人差し指を重ねた。甘い甘い唇がひらく。

「連れ出して」

離れた手。花魁は踵を返した。奥に消えたのを見送ってから、また道を歩き出す。まるで何かを見つけ出すように伸ばす花魁の腕は、少しホラーだ。進む、おいで、と呼ぶ声。忘れられぬ花魁の姿。闇は深くなり、より一層明かりがキラキラと輝く。
だけど、それより慌ただしい声に振り返ると、いきなり腕を掴まれて走り出される。

「!おまえ」
「置いてくなんて酷くないか?」
「つか!後ろから追ってきてるぞ!」
「脱走したのは良いけどさ、見つかっちゃって」

花魁は着物のまま走り出す。乾いた笑い声に、馬鹿らしいと嘆いた。だけど下駄が鳴らす音。かき分ける人ごみ。何より、こうして再び出会えたことに喜びを感じる。

「連れ出してくれるだろ?凌牙」
「はっ…任せとけ馬鹿」
「馬鹿っていうな!遊馬だ!」
「良い名前じゃねーか」

振り返れば余裕の笑み。花魁たちが声をあげる。人の群は道をあけて、通り道を作り出す。黒く染まる空見上げたら、花びらはヒラヒラと歌うように舞う。届かない声を運んでくれないか。誰に?目の前の君に。

「誰かさんのせいで、人生がぐちゃぐちゃだ」
「アンタだって、俺のこと気に入ってたくせに。一目惚れってやつだろ?」

目まぐるしい世界が回る。一目惚れで申し訳ない、これも人生のひとつ。手を握り返したらこちらに止まって、銃をこちらに向けるのだ。
にこりと笑う彼の手が、引き金をひいた。

ばぁん、


後ろで呻く声。悲鳴。ああ、本当にぐちゃぐちゃな人生だと後悔したって手遅れ。一目惚れは怖い。犯罪者と一緒だって良いと思うのだから。

「遊馬、確実に当たってたぞ」
「俺もはじめて使ったから、アンタに当たらなくて良かった」
「当たってたらどうすんだよ」
「俺も死ぬ」

走る、疾走る。
花魁通り抜ければ見慣れた街。
どこまでいく?どこだっていいよ。
二人の影は最果て目指して唇を重ね合う。


あ、口紅ついた。

アララ逃亡劇

(何処にだって良いの)
(連れ出してよダーリン)



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