ヒーローゲーム
たまたま観た番組には、男の子が女の子を助けるという、ヒーローものだった。女の子は涙目で「なんで私を助けてくれるの?」という質問に、男の子はニコニコした様子で言った。
「ヒーローだからさ」
ぷつん、とテレビの電源が切れる。オレの隣に座っていた十代は、ふう、と息を吐いただけ。
「…で、十代。そろそろ何があったのか教えてくれ」
そんなオレに、十代はいつまでも俯いたままで、ただ唇を噛み締めていた。
オレと十代は、同じ学校だけど話したことは無かった。けれど今日の帰宅途中。雨が降っているのに傘もささずに走る十代を見つけた。しかも明らかにヤクザっぽい男がその後ろに居て。何があったかは知らないが、とりあえず十代をうちに連れて来た。
「…悪かったよ」
「あの男たちに追われてたんだろ?」
「……父親が、借金してて…闇金に手を出した挙げ句にオレをそいつらに売ろうとしたんだ」
「それで逃げて来たのか」
こくん、と頷いた十代に、これからどうしようかと頭を抱える。このまま家に帰してもきっと、また追われる。
うんうんと唸るオレをよそに、十代は立ち上がると部屋をでて行こうとする。
「何処行くんだよ?」
「帰る」
「また追われるかもしんないだろ?」
「だけど、」
ここにいたら迷惑がかかる。
そう言って部屋をでて行った。すぐに追えないまま、玄関が閉じる音がした。
きっと、追えなかったのは、自分まで巻き込まれるのが怖いだけ。
ああ、オレってサイテーだな。
あの日から数日、今日も雨が降っていた。傘に落ちる雨音が派手に大きくて、大雨警報だとか言ってた気がする。
今日の夕飯は何にしようとか考えてたら、見慣れた顔があった。
「十代…?」
傘もささずに走っていて、その後ろには前と同じ、ヤクザみたいな奴が追っていた。
また足が動かない。
どうせ他人事なんだし、て片付けようとした脳内が嫌々と揺れた。
(十代っ)
水しぶきが上がる。
傘が落ちる。
雨で濡れた手を握る。
走る、走る、走る。
「!?おまっ…ヨハン?」
「いこう、十代」
遠くで男が叫ぶ声がした。
途切れ途切れの息。
十代はひどく濡れていて、ずっと雨の中走ってたんだろう。
「ヨハンまで目付けられるぞ!?」
「そしたら、十代と逃げるさ!」
十代は、雨のせいなのか、それとも本当に泣いているのか分からないが、眉を八の字にして、雨に混じるようなか細い声で、いつかに聞いた質問をした。
「なんでオレを助けてくれんだ?」
ヒーローゲーム
(だってオレ、)
(ヒーローだからさ)