小説 | ナノ


 白時々晴れ



※遊馬と十代が同居。みんなタメです


さくさく。二つ分の足跡が白い道に跡を残していく。空から降る白い花びらは、音も無く箱庭を覆い尽くす。けれど傘に落ちればパラパラと音をたてた。白い息。二つの傘は大きく揺れる。さく、さく、さく。

「起きてるっかなー」

少し不似合いな傘と同じ色のした青髪がとある二階建ての家を見上げた。それから隣にいた彼は、その家のインターホンを鳴らす。ピンポーン、という軽い音と共に明らかに慌てている様子が外にまで響いてきた。少しすると、勢いよくドアが開かれる。

「お待たせ!」
「おはよう、遊馬」
「おはようヨハン!シャークもおはよう!」
「ああ」

元気良く挨拶をする遊馬の後ろ、制服の上からコートを羽織り、手袋にマフラーといった完全防備でいるこの家の主、十代は自分を抱くように両手をクロスしている。

「もお無理…寒い…」
「本当に十代は寒がりだよな!せっかく雪降ってんのに」
「なんで雪降るんだよ馬鹿ァ…」

天気に文句を言ったって寒さが和らぐことはなく、ずっと寒い寒いと手をこすり合わせる。このままでは凍死しかねないな、とヨハンは十代を手招きする。

「…なに?」
「寒いんだろ?カイロ持って来たから、手袋の中に入れとけ」
「おっ、サンキュー!」

ヨハンからカイロを二つ貰うと、いそいそと手袋に詰める。少しは暖かくなったのか、顔色はさっきより良い。四人は早く学校に行こう、と歩き出す。
四つ分の跡が続く。さく、さく、さく。
やがて学校に到着すると、それぞれの席に着くが、例え外よりは寒くないとは言え、暖房が入ってない教室はそれなりに寒い。十代はコートを脱ぐことができずに、小さく震える。

「遊馬、おまえは寒くないのか?」
「ちょっと寒ぃかも…」

さすがに外に長らく居れば寒いもので、遊馬は小さくくしゃみをする。

「言わんこっちゃないな…」
「大丈夫だって!」
「風邪引くなよ」
「おう!」

ニッと笑う遊馬に、本当かどうか心配になりながらも授業開始のチャイムの鐘の音に自分の席に着く。
お決まりの午前。遊馬といえば寝てしまっているし、十代は寒さのあまりに机に伏せて授業など耳に入っていない。それでいて授業終わってからヨハンと凌牙に助けを求めるのだ。

「先生。遊城くんが具合悪そうなんで、保健室連れて行って良いですか」
「うむ、この時期は駄目だったな。頼んだよ」
「はい」

さすがに教室は寒すぎか、カタカタと震える十代を見て居られなくなったヨハンが手を上げる。担任も、彼が冷え性なのを知っているので、簡単に許可は降りた。ヨハンが小さく十代の名前を呼ぶ。

「…んぁ…?なに…?」
「暖かい保健室に行こうぜ。立てるか?」
「立てる…」

のろのろと立ち上がると、ヨハンに支えられるような形で教室を出て保健室に向かう。比較的、ここは暖房がついているので全然暖かい。どうやら保険医は留守のようで、勝手ながらベッドを使わせてもらう。ヨハンがベッドに座り、十代がヨハンに背を向けて抱きしめられる形になる。すっぽりと腕の中に埋まった十代は、はあ、と息を吐く。

「まだ雪降ってるか?」
「ああ。すげー降ってる」
「なんで雪なんだよ…遊馬は朝から騒がしいし…雪食うとかシロップ持ち出すし」
「遊馬らしいな」

カーテンの間から見える窓の奥。雪は相変わらず音もなく、アスファルトに埋まって行く。暫くその風景を見つめていたが、ふいにヨハンの腕をぎゅう、と掴む。

「どうした?まだ寒いか?」
「雪が、ヨハンを浚いそうで」
「なんだそれ」
「わっかんね。…だけど、雪見てるとさ、何もかも飲み込まれる気がしてくるんだよ」

あの真っ白に埋まる世界に、大切な人が連れ浚って行くようで不安になる。何もかも、消えてしまいそうで。この雪のように。

「…大丈夫だって。俺はずっと、十代の傍に居るぜ」
「うん。分かってる」

雪に浚われるなんてごめんだからな。ヨハンが言うと、十代は嬉しそうに笑った。



放課後。さく、さく。四つ分の足跡が、まだ降り続く白い道の上に、新しい跡をつけていく。

「音が、ない」
「ああ」
「まるで無だな。何もかも、いなくなったみたい」

雪はゆったりと、小さな粒となってまだ降り続ける。傘をささなければ、何も音がない。遊馬は凌牙を見た。

「どっか、行っちゃいそうだ」
「それはこっちの台詞だ」
「大丈夫だって。シャークがいるだろ?」

そう言うや否や、そのまま後ろに倒れ込む。さすがに雪が積もったからとは言え、まだ浅い。コンクリートに身体をぶつけては危ないと、遊馬の腕を掴んだ。斜めに向いたまま止まる。凌牙は危機一髪とばかりに息を吐いたが、遊馬は笑っている。

「何笑ってんだアホ」
「はは。だってほら、こうやって支えてくれるだろ?」

離さない手。この手がある限り、何処にだって行かない。凌牙は腕をこちら側に引っ張り寄せる。すると遊馬の身体は凌牙の身体の中へダイブするような形になり、そのまま抱きつかれた。

「シャーク、」
「寒くねーか?」
「…ああ!シャークが居るから寒くないっ」

ぎゅう、と抱き返せば、凌牙は照れくさそうに笑う。

「帰ろうぜ。十代たち先行っちゃったし」
「そうだな」

握りなおすように手を絡める。片方には手袋を。片方には、暖かい君の手を。吐き出す白い息は、酸素に触れて消えた。
雪は、まだ止みそうにない。



ゆーきや、こんこん、あられや、こんこん…ふってもふっても…、
小さく口ずさみながら一人、みかんの皮をむく。テレビからはホワイトクリスマスになりそうですねーというアナウンサーの声がする。

「そっか。もうクリスマスか」
「俺にもひとつ頂戴」
「ん」

炬燵に入っている遊馬の後ろのソファーに、エプロン姿の十代が手を差し出す。テレビに視線を向けたまま、みかんを手にのせると、同じように十代が視線をテレビに向ける。

「クリスマスかー。雪降んねーかな!」
「絶対嫌。雪は嫌いだし」
「寒いから?」
「それもある。けど、やっぱり怖いんだよな。何も無くなっちゃいそうで」

ふーん、とみかんの皮を丁寧にむいている十代のほうへ顔を向ける。

「…なんだよ?」
「ヨハンもいるけど、ちゃんと俺も居るからな。心配すんなって」
「…ああ」

ニッと笑う遊馬に、優しく手が頭に触れる。

「みんな居る。分かってる。俺はきちんと、こうして居る」
「ああ!消えたりしねぇって!」

二人で笑いあうと、後ろのキッチンからボコボコと水が沸騰する音にハッと立ち上がる。

「やばっ、料理の途中だった!遊馬、あとのみかん食っていいぜ」
「今日の夕飯なにー?」
「シチュー」
「人参は抜きで」
「駄目。きちんと食えよ」

呆れた様子で振り返ってくる十代に、最後のみかんを口に放り込む。

「はは。俺死ぬ」


白時々晴れ

(真っ白い中消えても)
(君の手がいつだって照らすから)


「大丈夫。」


初雪見た記念。
途中わけわかめになってきた…




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