小説 | ナノ


 すげぇ好き



※ヨハンと十代が四十歳ぐらい

日が傾いて来た頃。前から受ける風を堪能しながら、先ほど連絡を受けた約束の場所へ向かう。バイクを運転しているヨハンは、鼻歌なんか歌って楽しそうだ。俺が以前に訪れた時とは、この場所も大きく変わってしまっている。むしろ、自分がここに来たのも何年ぶりだろうか。たまたま、この場所に来ると翔から連絡があった。俺に、会いたい人が居るそうだ。相手はどうやら俺を知っているらしいが、俺は全く知らない。確か…『不動遊星』て名前だったか。良い名前だな、と暫く考えて前を向くと、あっと声を上げる。

「ヨハン、そこ右」
「りょーかい」
「次のとこ左な」
「ハイハイっと」

複雑なところな為、ヨハンの方向音痴では絶対にたどり着けないと思い、俺がナビをしている。一番簡単なのは、俺が運転すれば良いだけなのだが、ヨハンがどうしても俺が運転する、と言うので任せた。
暫く壁沿いに走っていると、甘い香りが鼻を掠める。そういえば待ち合わせ時間は三時だったか。ちょうどティータイム時だ。ヨハンが「お腹すいたなー」と言いながらハンドルを握り直す。

「十代、ここら辺だろ?」

細い路地を抜けると、広場に出た。たくさんのカフェテリアが並び、微睡んだ空気が甘くその場に立ち込める。確かにここら辺だが、彼は何処に居るだろうかと探すと、ちょうど目の前の噴水を挟んだ奥、彼らしき人物が立っていた。バイクはゆっくり、彼のところへ向かう。エンジンを止め、俺だけ降りると彼の傍に寄った。

「えっと、不動遊星くん?」
「はい」

彼は頷いた。人違いで無いと安心したと同時に、何か違和感があった。なんていうか、俺は一度、彼に会った気がする。何処で、とか良く分からないが、確かに見覚えがある気がする。初めて会った気がしないな、と言えば彼は少し驚いたように笑う。

「で、要件は?」

本題を突きつけると、やはり、何処かで見たことがある、優しい目線を俺に送りながら、口を開いた。

「空は好きですか?」

いきなり何を言い出すんだと驚いた。たぶん、後ろのヨハンも驚いたに違いない。この質問、前にも一度聞かれた気がする。やはりこの青年に。その質問は、とても意地悪だ、空が好き?当たり前だろ。

「好きだぜ、すげぇ好き!」

だってヨハンが好き?と聞かれていると同じようなもんだろ?
彼は何処か安堵したように、小さく声をもらした。「その答えが聞けて良かったです」と言えば、何処か寂しげに眉を寄せていた。彼はわざわざ申し訳ない、と、カフェでお茶をし、日が暮れ始めた頃、バイクに跨がる。

「じゃあな。また何処かで会えたら、デュエルしような」
「はい、ぜひ!」

エンジンが大きく音を立てると、彼は「それと!」と声を上げた。

「過去の貴方が、今の貴方に、よろしくと言ってましたよ」
「え…?」

間抜けな声と同時に、バイクは走り出した。振り向けば、優しい笑みがこちらに向けられていて、なんだか犬みたいだなあ、と考えながらヨハンの腰に腕を回す。

「十代は彼の言葉、信じるか?」
「過去の俺が、って奴?」
「そうそう」

うーん、と小さく悩んでから「信じる」とだけ告げた。たぶん、これは因果。巡り会う結末。なんていうか、運命みたいなもんだろ?きっと彼は、過去の俺に会ったんだ。だから俺に会いに来てくれた。

「俺の事、好きだからな」
「自惚れか?」
「確信だ」

じゃなきゃ、二年もずっと、俺を探してなんかくれないだろ。
大きく日が傾く。夜が始まる。

「十代は俺のだけどな」
「もう俺ら、おっさんだぜ?」
「何言ってんだよ!いくつになっても、十代は十代だろ!」

ヨハンは笑った。俺も笑った。良い年したおっさんが何してるんだって感じだが、今は凄く幸せだ。なあ遊星、君も、幸せか?


すげえ好き


(空も、ヨハンも、)
(そして君も、)

また会おう。何処かで、必ずな。



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