小説 | ナノ


 空は好きですか



※ヨハン←十代←遊星
※映画後


エンジンが大きく音を立てて止まる。見慣れた風景が広がり、十代は安心したように息を漏らすとアスファルトに足をついた。「ここまでありがとな」と言って笑う彼に、遊星は眉を寄せて名前を呼んだ。それは寂しそうに、悲しそうに。

「…一緒に、来ませんか?」
「何処に?」
「未来に」

数回、目をパチクリさせると腹を抱えて笑い出した。真面目な顔して冗談言うなよ、と茶化してやれば、遊星は顔色ひとつ変えずに「俺は本気です」と十代を見据えた。

「馬鹿言うなよ。これこそ、未来が変わっちまうだろ」
「でも、」
「俺には待ってる奴が居るんだ」

次はこちらが真剣に見据えれば、遊星は少したじろぐ。それから目線を地面に落とすと、ぐい、と両手で頬を掴んで空を見上げさせる。出会ったときと同じ。空は青く澄み渡り、キラキラと光ってみえた。

「空が、待ってるんだ」
「空…ですか」
「ああ。空。曇りも何もない空。虹には相応しい奴だよ」

空の上に描かれる虹。七色が輝き、彼を照らしてくれる。十代は少し笑うと「未来の俺によろしくな」と告げて遊星から一歩離れる。すると遠くから声がした。十代が振り返った先、遊星も視線をそちらに向かせると、こちらに手を振る…空が、見えた。柔らかく髪が揺れ、太陽のように優しい笑みがこちらに向かっている。

「ヨハン!」

彼は叫んだ。と、同時に空に向かってかけて行った。遊星が伸ばした手は空を切り、届くことは叶わない。二人は幸せそうに抱き合い、十代はデュエルの時には見せなかった笑みを彼に向けている。なんだか二人を見ていると、空と太陽のように思えた。燦々と照らす太陽を支える空。彼らにはそれがピッタリだった。

「十代さん!」

遊星は叫んだ。最後の問いを聞きたくて。少し意地悪い質問を、彼にぶつける。

「空は好きですか?」

驚いたような顔を向けてから、彼は間を少し置いて頷いてみせた。

「    、     !」

また会ったらデュエルしような!とは聞こえたのに、本当の答えは口パクでやられた。遠くからでは口の動きは見づらい為、何を言ったか良くわからない。だが、何となく、彼が言ったことは分かった気がする。それが何だか、よけい自分を惨めにさせた。


空は好きですか


自分の世界に戻り、遊星は彼の居場所を探した。知人などに話を聞いたり、友人たちにも遊城十代という男の居場所は知らないか聞いてみたりもしたが、行方は分からず。しかし、それから二年。遊星は諦めずに彼を探していた。すると、十代の友人である人が、この街に彼が居ると言ったのだ。午後三時にカフェで待ち合わせを取り付けてくれたらしく、彼には大いに感謝をするしかない。ソワソワした様子で、少しぎこちなく待っていると見つけた。バイクに乗っているのは、彼が言っていた空。その後ろに彼はいた。姿は全く変わっておらず、少し背が伸びたぐらいかも知れない。

「えっと、不動遊星くん?」
「はい」

バイクから降りると、十代は人の良い笑みを向けて「なんか初めて会った気がしないな」と苦笑いに変わった。太陽が燦々とアスファルトにうちつけ、水溜まりが光を反射してキラキラ光る。午後のティータイムの時間。カフェでは人が多く、微睡んだ空気がその場を包んだ。

「で、要件は?」

そんな空気に溶けるように、遊星は、あのときの質問を彼にぶつけた。

「空は好きですか?」

驚いた顔をする十代は、やがてあのときと同じ。太陽にも似た笑みを浮かべて返事をした。

「好きだぜ、すげぇ好き!」

ああ、やっぱり。遊星は安堵した。こんな答えだろうと言うのは、一目瞭然だった。なのに敢えて聞いたのは、あの時の笑顔が、忘れられなかったからか否か。今は曖昧だって良かった。もう一度、今の時代でこうして彼に会えたのだから。

遊星は笑った。そして、小さく、去っていく彼らを見つめて、終わった想いを打ち明ける。( 好きでした。 )
今日も空は青く、きれいだった。



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