小説 | ナノ


 プロポーズ



秋空が広がる空に燦々としている太陽はまだ暖かい。少しばかり冷たいアスファルトに腰をおろし、手に持つ牛乳パックを潰した。隣では膝を折り、その上にお手製弁当を置いて呑気に鼻歌なんか歌う十代が、「今日の卵焼きは、少し甘くしたんだぜ」と、俺にはどうでも良い報告を済ませ、口に放り込む。綺麗に巻けている卵焼き。足が器用に曲がっているタコウィンナー。その他、ミートボールやらトマトやら、毎回思うが、十代のお弁当は美味そうだ。

「ヨハン、パンだけで午後お腹すかねぇの?」
「空く。空くけどさー、弁当作れないし、かと言って母親は作ってくれないし」

自分の事は自分でやりなさい、とか言って作ってくんないんだよなー。俺は完全に料理は出来ないし。だから購買に売ってるパンで我慢。仕方ない。肩をおろして二本目の牛乳を口に入れると、あー、ていう控えめな声が耳につく。

「どうした?」
「あのさ、ヨハン」
「ん?」
「卵焼きは、甘いのと普通の、どっちが好き?」
「え?どっちも好きだぜ」

普通に回答をすれば、さも恥ずかしそうに俺から視線を外し、足首を前後にパタパタ動かして気を紛らわしている。具合でも悪くなったのかと顔を覗こうとすると、「作ってくる」とちょっとぶっきらぼうに告げた。

「何を?」
「弁当」
「俺の?」
「うん」
「十代が?」
「うん」

味は保証しねぇけど!とか言いながら残った弁当を胃に収めた十代は、いそいそと弁当を袋にしまう。俺といえば固まって、その様子を暫く見ていただけ。十代の手作り弁当かー、とか呑気に考えてたけど、なんならなって、十代に向き直る。

「何だよ?」
「俺だけの為に、弁当作ってくれよ」
「まるでプロポーズみたいだな」
「プロポーズだぜ」
「ふーん……て、は!?」

だからプロポーズ。ニコリと笑えば、りんごみたいに真っ赤になっていく十代は、慌てて視線を逸らした。それから予鈴のチャイムが鳴ると、ダッシュでドアに向かう。なんかそれ、酷くないか?

「おーい、十代。返事はー?」

ドアノブに手をかけた十代は、相変わらず真っ赤な頬のまま、叫んだ。

「イエスに決まってんだろー!!」

バタンと大きな音を立てて閉められたドアを見つめて思わず笑ってしまった。きっと今頃、階段で転んでいるであろう十代に、小さく投げかけた。

「幸せにしてやるよ」


プロポーズ

(あ、アニキ大丈夫すか…?)
(だいじょうぶ、じゃ…ない!)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -