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 ボイコットシンデレラ



空に青空が広がる。紅葉が舞うように踊る通学路はお決まりで。その隣で手をこすり合わせる恋人に、ヨハンは手を差し出した。

「なんだ?」
「寒いなら手、繋ごうぜ」
「いや、平気」

最近の彼はいつもそう。一応、恋人であるのに、それらしい甘い雰囲気は一切無い。ちょっとむくれながら、学校への道のりを歩くと、十代は小さく息を吐いた。白い煙が空気に溶けて消えてく。

「寒い」
「走るか!」
「馬鹿、疲れるから嫌だ」

とんだ我が儘だな、と小さく毒づいて、空を見上げた。そういえば付き合って三年だなあ、と考えて、今、自分たちが受験生なのを思い出した。十代はどうするのだろう?と考えて思考を止める。きっと自由奔放に生きてくんだろう。

「もう、受験終わった奴とか良いよなあ!」
「ヨハンは大学行くのか?」
「まさか」
「就職?」
「違うぜ」

じゃあなに、ニートか?なんていう十代に、ヨハンはにっこりして答えた。

「色々な国を回ってくつもりなんだ!」

そんな発言をして、後にヨハンは後悔をした。




昼下がり。午後の授業も、あと一教科となった昼休み。三年のとあるクラスからは、男子のむせび泣きが聞こえて来ていた。

「ま、万丈目ぇえ…!オレ、オレ、十代に嫌われるようなこと言ったかあ?」
「うるさい!!男が泣くなッ」

その泣いている本人、ヨハンは、必死に万丈目の腕にすがりついてひたすら泣いている。全ての発端は朝から。いつも休み時間になると、隣の席にいる十代に声をかけるわけだが、スルー。今日のデュエルは屋上な!と言えば、用事出来た、と軽くあしらわれる。しまいに昼休み、いつも一緒に居るのに十代はスタスタと席を離れてしまったわけだ。これは完璧に、避けられている。

「オレ、おかしなこと、言ってねぇぜ…!なのに十代の奴がああぁ」
「言ったから、あいつがあんなになってるんだろうが!というか鬱陶しい!!」

朝、何か言っただろうか、とデュエルのことしか考えてない脳を、フル回転する。そこでひとつ、思い当たる台詞を口にしていた。

「色々な国を、回る…」
「なんだ、卒業したら旅にでも出るつもりか」
「ああ…だけど、それが何でだ?」

泣くのを止めたヨハンは、必死にその理由を探した。それに万丈目は呆れた様子で、なんとなく十代の気持ちがわかった。

「置いて行くのか」
「は?」
「旅するってことは、十代の奴はどうするんだ?置いて行くつもりなのか?」

それにヨハンは、あぁ、と小さく頷いた。

「へえ…そうなのか」
「え、十代?」

いつの間にか隣に立っていた彼は、何処か怒りに満ちた顔をしてヨハンを見つめる。万丈目は見てみぬふりをしようと、黒板へと身体を向けた。
その瞬間、パァン、と肌が悲鳴を上げる音にため息をもらす。

「オレはお前を信じたかったのにな」
「じゅうだ…ちょ、え?十代!」

ヨハンの頬へ平手打ちをした十代は、悲しそうな顔をし、教室から去っていく。それをただ呆然と眺めていたヨハンは、再び万丈目にすがりつく事となる。





授業が終わる。ある意味ヨハンの人生も終わりを迎える頃、手に持つ十代のエースカードを暫く眺める。これは、平手打ちをした十代が落として行ったもの。クラスではホームルームを終え、帰宅する生徒で溢れる。

(十代に、謝らないとな)

たぶんいつもの彼なら屋上に居るだろうと、ヨハンはカードを片手に教室を飛び出した。


規則正しい息が聞こえる。一定のリズムで呼吸をする十代の横、ヨハンは悩ましげに座っていた。予測どうり十代は屋上に居たが、どうやら眠っているようだ。わざわざ起こすのも悪く、暫くかわいい寝顔に見入る。

「…ごめんな、十代。オレ、お前はお前の夢のためにここに置いて行こうと思ったんだ。オレはオレの夢の為に」

決して、一緒に行きたくないなどと言うわけでは無いのだ。きっと自由奔放に生きるであろう彼を、自分の旅に同行させるのは悪いと思い、置いていくという言葉に頷いた。それが結果、エゴという形で自分に返ってくる。

「好きだぜ、十代」

眠る彼へ唇を寄せる。と、前に、彼の大きな瞳と目が合い、口元を緩めた。

「オレもだぜ、ヨハン」
「うえ!?起きてたのかよ!」
「まあなー」

ずるい…と小さくつぶやいて起き上がる十代と向かい合わせになる。
ヨハンが手に持つ自分のエースカードを取り上げると「わざと落としたんだ」と、自分のカードケースの中に入れる。

「わざと?」
「お前が、追いかけてくれるように」
「まるでシンデレラだな」

クスリと笑うヨハンに、十代もつられて笑う。それから十代は、ぐっとヨハンに近寄ると、唇を寄せる。

「ヨハンは、ずるい」
「なんでだ?この状況でキスしない十代の方が、よっぽどずるいと思うぜ」
「俺は頼りないか?」
「?」
「俺、ヨハンの傍に居たい。別に卒業してから何をするわけでなく、ヨハンの傍に居れれば良いと思ったんだ」

なのに、自分に相談もせず、勝手に旅に出る宣言をした挙げ句、自分を置いて行くと言われた時、怒りと悲しみが駆け上がった。どうして勝手に決めるんだと。
十代にとって、ただ傍に居られるだけで良かった。傍に居られるなら夢なんてどうだって良いと。そこまで決意したのを、裏切られたように思えて仕方ない。

「…なんなら十代、早く言ってくれれば良かったのに」
「うるさいな、聞けなかったんだ」
「なあ、十代」

ちゅ、と唇がリップ音を立たせる。触れた唇が次に放つ言葉は、まるでダンスへ誘う、王子のようで。

「一緒に、旅してくれますか」

十代といえば、遅い、と一言。

「良いに決まってんだろ」

闇の帳がおり、満月が微笑む。
二人は唇をまた、重ねた。



卒業式。女子達は涙ながらに、抱き合い、語らう。男子達も腕を組んで「またな」と親友との別れを惜しむようで。大学に行ったり、就職したり、ヨハンと十代の友人たちも悲しそうに二人を見送る。

「アニキいいいい!たまには、ジャパンに帰って来てくださいよおおおお」
「アニキいいいい!」

十代を信頼する、翔と剣山は、彼に抱きつきながら別れを惜しんでいるようで、当の本人は少し困ったように笑う。
万丈目は、最後の最後まで態度は変わらず、ヨハンに今までの苦労をぶつけているようだ。

「毎回毎回、貴様の面倒を見てきた俺様に、感謝ぐらいしろ!」
「ごめんって、ありがとな!万丈目」
「ふん」

それぞれ、友人達の別れをしてからヨハンと十代は手を取り合い、片手には卒業式に貰った花束を空に掲げた。

「まず、何処に行くか」
「どこだって良い」
「気の向くまま、か?」
「ああ。ヨハンと居られるなら、何処だって」

クスリ、と顔を見合わせて笑う。足取りは何処か豊かで、ヨハンはそのまま走り出す。つられて十代も走る形になり、早い!と後ろから声をかける。
そんな幸せそうな二人を友人はいつまでも見送り、まるでそれは。

「王子様とお姫様みたい」


ボイコットシンデレラ

(ヨハン!そっちは学校に戻る)
(アルェ?)

  旅はお姫様の方が優秀です。



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