小説 | ナノ


 初恋融解



※鉄男→遊馬で凌遊
※鉄男が遊馬を女の子だと思ってます


学校にいる札付きの不良、神代凌牙の恋人をこの間みた。夕暮れの中、彼の腕に細い腕を絡ませ、後ろからでは長いコートから伸びた足しか伺えなかったが、横顔は太陽のように美しく、あどけなかった。一言で言うなら綺麗だった。たぶん、女の子だろうとは思う。伸びる影を踏みながら歩く二人は幸せそうで、少し、羨ましかった。


(可愛かったな…)

それから俺の脳内は、彼女ばかりで。そりゃあ、あのシャークの恋人だってのは百も承知だけど…俺も、あんな可愛い彼女が欲しいもんだと切実に思う。
放課後。クラスでのホームルームが終わり、小鳥が先生に呼ばれて行ったのを見送ってから帰ろうと職員室の前を通ると、シャークの姿があった。どうやら、説教らしい。何をしたかは知らないが、あまり関わらないようにと昇降口に向かうと、見慣れた顔を発見。

「…どうしたんだ?」

昇降口の前。帽子を深く被りながら、可愛らしい薄いピンクのワンピースを着ていたのは、シャークの彼女だった。オドオドした様子で、左右を確認していて、なんというか、挙動不審だ。

「あ、の…シャーク知らない…?」

声も意外と低い。でも可愛いな…。

「さっき、職員室に居たぜ」
「…そ、そっか」

俯きながら「ありがとう」と言った彼女は、また帽子を深くする。ここはチャンスかな、と俺は彼女の隣に立って「少し良いか?」と聞く。

「シャークの彼女さん…だよな」
「おう…」
「あのシャークと付き合えるなんて、すごいな。別に悪い意味じゃないぜ」

あの札付きの不良と付き合えるなんて、ぶっちゃけ有り得ないと思った。彼が通るだけで皆が息を飲む。他校との喧嘩はしょっちゅうで、この前、この学校に乗り込んで来てたっけな。誰も、近寄りたいとは思わない奴なのに。

「シャークは、良い奴だぜ。不良に絡まれてたの、助けてくれたんだ」

こんな可愛い子だったら、きっと目つけられるよな。

「確かに、素っ気ないし、デートとか帰り道とか、良く喧嘩売られるけど…ボロボロになってまで、助けてくれるんだ」

俺今、のろけられてる?

「悪い奴じゃないぜ」

彼女がこちらを向くと、曇りもない優しい笑顔が向けられた。ああ、やめてくれ。適わないと知っていながらも君を、君を、

「遊馬」

後ろから声がして、思わず固まる。彼女は俺の後ろに居るであろう恋人を観て、嬉しそうに花が開いた。ああ可愛い…ケド。

「…言っておくが」

耳元で囁かれる。怖い。死の宣告か!?と冷や汗を垂らしていると、ニヤリと笑われた気がした。

「コイツは男だぜ」
「……は?」
「シャーク?何してるんだよ。早く帰ろうぜ!」
「ああ」

横を通り過ぎたシャークの腕に絡みつく。夕日に向かって歩く二人をただ呆然と見つめながら、俺は叫んだ。

「おとこおおおおおおおお!?」







俺の甘い初恋の相手は男でした。昨日は、シャークからの言われで、女装してただけらしい。それで挙動不審だったのか。
今日も彼女……いや、彼は昇降口に立って、職員室で怒られている恋人を待ち続けているようだ。

「よう、鉄男!シャークが来るまで話さないか?」

ああやめてくれ、その無垢な笑顔。
また惚れてしまうだろ。


初恋融解

(切実に彼女募集中だぜ…)
(鉄男ー?)



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