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目を覚ましたドフラミンゴさんは服を着てくれたけど、羨ましい腹筋は全開のままだった。俺が見てもわからないけど背中腰部に電源コネクタと有線通信用コネクタ、所謂コード類があるから前が開いてるほうが都合が良いんだって。

「xxx!なぁせめてDDシリーズの電源スイッチどこか教えてくれ!」
「都市伝説が現実だと証明できる、あと一儲けできる、俺が」

倉庫の入り口でルフィとクロコダイルさんに問い詰められている視界の端で、ドフラミンゴさんが唇の前に人差し指を立ててニタリと笑った。
俺だけに見えるように。秘密のサイン。


「え、と、へんなとこ、にありました」
「それがどこだよ教えろよおぉぉ」


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パソコンは起動して初めて認識した人間を持ち主として記憶してしまうらしい。なので、ドフラミンゴさんを起動した俺が彼の持ち主だそうだ。そう、御主人様というやつ。そのまま持って帰れってクロコダイルさんがあっさりくれたんだけど何か裏があるのだろうか。本当に邪魔だったのかもしれないけれどありがたい。ドフラミンゴさんも当然といった様子で俺の後ろを付いて来た。わーいパソコン!
でもまさかこんなに格好良いパソコンが貰えるとは思ってなかった。癖なのか歩くのがガニ股気味でちょっと偉そうだったり上から覗き込むとすぐ猫背になったりして人間みたい。しかもルフィが羨ましがっていたからきっと物凄くいいパソコンなのではないだろうか。何でも言う事聞いてくれて、何でも優しく手伝ってくれて、そりゃもう執事的に甲斐甲斐しく細やかに。


「ドフラミンゴさんてロールキャベツとか作ってくれたり」

「しねェぞ」


ちょっとなにこの子便利ロボじゃないの!?
ご飯作ってくれたり掃除してくれたり洗濯してくれたりは、しないらしい。

「えとじゃあ何が出来るんですか」
「フッフッフ!なんでもできるぜ」

家に連れ帰って最初はそんな会話をした。今にも土足で上がりそうだったので玄関で脱いで欲しい事をお願いすると、器用に踵で反対側の踵を踏んで爪先の細く尖った靴を脱いでいた。もしかして外国育ちなのかな。金髪だしサングラスが似合いすぎだし。1Kの俺の部屋には背の高いドフラミンゴさんがいると一気に窮屈に見える。俺が快適にテレビを見るために、先月カタログ落ちで半額になっていた新品の2シーターのソファを買ったのだけれど、ドフラミンゴさんが脚を余らせて座っていると半額には見えない。体も態度も大きめだ。洋家具が似合うなあ。

「ロールキャベツ出来ないのに」
「まぁ今はな」

ソファのアームをなぞっていた造り物の指が天を仰いだ。そのまま彼の顎を支える。
俺の家なのに大層な寛ぎっぷりだと思ったけれどドフラミンゴさんの家でもあるのか。因みに家主の俺はパソコンにソファを占領されたので床である。

「目って見えてるんですか?」
「あァ見えてる、不安か?」

視線を隠されると相手が何処を見てるのか確かに不安になるけれど、俺はただ単にサングラス取れるのかが気になっただけ。執事的ではない空いている手がソファのシートを軽く叩いて俺を呼んでる。お茶でも入れればよかったかな。隙間に座ると好きに見ていいぞと顔を向けられる。つい笑い返すと、光の加減で紫の硝子に一瞬俺が映った。ただの眼鏡ではない気がするけど、これは取れるんですか。

「取るなよ、見えなくなっちまう」

手を伸ばしてサングラスの縁に触れると釘をさされた。
パソコンをもらったはいいけれどどう使っていいのか、というか人の形してるから扱っていいのか緊張してしまう。なんたってパソコンのぱの字もわからない。本屋で使い方の本とか立ち読みしてくればよかった。
肌が綺麗だな。指がつるの端まで辿り着いて形の良い耳の輪郭をたどる。ピアスしてる。また端まで到着してしまうので嬌笑を浮かべたままの顎を滑る。ドフラミンゴさんは微動だにしない。感想が1つある。


「冷たくない」

「体表面の温度は36.8℃に保ってるからな」

伝い落ちる俺の指が平均体温の温度の掌に捕らえられる。軽く握り返して確かめると本当だ。柔らかくて中には骨がある感覚がして暖かい。人のぬくもりだ。掌を内側から爪にひっかかれて緩めるけど指は離れていかない。ドフラミンゴさんの人指し指が掌から手首の内側を伝って行く。お返しだ。真似されてる。

「なんか、エロい」

「俺のセックスアピールは生まれつきだ」

指は肘まで行って自然と離れて、ドフラミンゴさんは組んだ脚を解く。それから緩慢な動作で右腰辺りからコードを引き出して、屈んで床に直置きの電源の入ってないテレビ背面に繋いだ。台を買おうと思って早一年経ち床置きに慣れてしまった。早くもズボラなのがバレたかもしれないどうしよう。長い指がテレビ本体にある電源ボタンを押す。するとテレビは昨日消したチャンネルが映るはずだったけど、黒い画面に"NO DATA"のサンセリフ体の白い文字を表示した。

「まァこの表示は紛らわしいモンだが、何も出来ないのはこの通りHDD空っぽなだけだ、俺はおまえが教えた通りに動く」

テレビを脚で少しソファから離した。ケーブルが外れて巻き取られる。断線の原因になるって叱らなくちゃ。

「ロールキャベツとやらも1度見りゃ出来る」

やるかやらないかは俺が決めるけどな、と笑いながらまた脚を組んで背凭れに腕を回した。


「それとも、いらなくなったか?」

顎を上げて踏ん反り返ったドフラミンゴさんがこっちを見た。変わらない笑った顔だけど、お腹の中ではきっと別のこと考えてる。捨てられると思ってるのかもしれない。パソコンが嫌なことってなんだろう。倉庫で誰にも使われないままでいることは、それは物凄く孤独で寂しいんじゃないのかな。

「いりますよ」

また一瞬俺のへらっとした笑顔が反射した。

「俺が使います」


「フフフ、手取り足取り教えろよ、xxx」




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