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「xxx」

後ろから凄みを含んだ声で呼ばれてるけど返事しない。構ってあげられなくて悪いとは思うでも今は話しかけないで欲しい。

「モリとスズキちゃんはノートパソコンだから、1人として計算するから、」

1人1台、人型パソコンを持つ時代だ。
なのに俺が大学のカフェテリアでノートに向かって筆算してるのは、ついこの前まで時代に置いて行かれていた名残りであり、俺が明日の飲み会の幹事だからだ。計算をし忘れてたのではなくて元々いた幹事が五徹したせいで飲み会前日ついさっき、倒れた。最後とか何かに寄っ掛かってるだけで意識飛んでた。まあそうなるよね。
パソコンが人型をしてるので、飲み会の予約って大変だな。今までパソコン持ってないって言えば、幹事任せられなかったけど納得だ。どうしてもパソコンを一緒に連れて行くって依存症気味な子もいるし、別に置いて行くって人もいるし、鞄に入るノートサイズの小型のパソコン持ってる人も稀にいる。そうするとノーパソじゃない子は席を余計に予約しなきゃいけなくて、あれ人間は何人遅れてくるんだっけ、はいもう訳わかんない。

「xxxおい」

痺れを切らしたらしく椅子の背もたれを脚で揺すられる。後ろの男は、背が高いのでという理由では足りないくらい行儀悪く踏ん反り返ってテーブルに座ってる。

実はこの足癖が非常に悪いのが俺のパソコンだったりする。

「ちょ静かに、わかんなくなる」
「38人」
「えっ」


「で座敷だろ、マルイの裏の蜜屋、全員3500で徴収しろ、19時から3時間で予約した」

持て余しているような長い脚でカフェテーブルから俺の椅子に乗り移って来て、背凭れに座って俺のボールペンを攫っていく。喋りながら蜜屋の予約番号と思しき数字をノートの余白に斜めに書きつけた。俺の字より筆圧が濃くて書くのが速い、整った大人の字だ。ドフラミンゴさんの字はローマ字の小文字が一番クセが出るけど、それが人間ぽくって綺麗だと思う。書き終わったら飽きたようにペンを放って、俺を上から覗きこんで悪く笑った。

「お前はタダ酒だ」

「……ドフラミンゴさん!」
「フフフ!変わり身が早すぎるなァ俺のご主人様は!」

振り返って背凭れごと猫背の腰に抱きつくと、突然の事にも器用にバランスを取って倒れたりしない。パソコンってすごい。腹筋超格好良い。



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古風、というかxxxは機械音痴だ。
折角ハイエンド機を手に入れて、起動しておいて、俺が触ったら壊れるんじゃないかとか意味不明に理由を付けて殆どいじってないらしい。話を聞いて一番笑ったのは朝飯を用意したけど食べてくれなかったって話。まあ突然にパソコン持たされてもそんなもんかなぁ。しかしもうちょっと欲があっていいんじゃないか。もしも俺がOS判別不能の都市伝説みたいなパソコン手に入れたらそりゃあ、食らう勢いで解体するけどな。羨ましすぎる。あ、xxxが幹事お疲れって飲まされてる。俺も行こ。

飲み会がお開きになり急な階段を出来上がった大学生達がぞろぞろと降りてくる。オール組と帰宅組に別れ、帰宅組が数人捕まえられ拉致される。それを、飲まされてふらつく幹事代行を支えている事で被害回避する。いつもなら俺もオール側だけど明日の1限が体育だから今日は断固帰る。駅で最終電車を待つ間にxxxを支えつつポケットからカタツムリ型のノートパソコンを出して、家で待機中のはずのパソコンに話しかけた。

「エース今から帰るぞー、途中xxx送ってくんだけど、ドフラミンゴ何処に居るかわかるか?」
"おつかれさーん、あ〜ルフィすまん、あいつ探せねぇんだ"
「うあ、そっかそうだったごめん」

xxxのパソコンは、買えば必ずついてくると言っていいアドレスも電話番号も持ってない。正しくは持っているかどうかすら分からない。詳しく調べようとするのを、持ち主は良いと言ってくれるけどパソコン本体が拒否する。万が一、案外にテキトーなxxxが心の底でよくわかんないからそのままでいいって思っているのを汲んでるとしたら、どんなプログラムでその深い返答が出せるんだろう。出会って高々一週間だというのに。益々調べさせて欲しい。
2駅目で降りて、改札を出たところからxxxを背負って人のいない商店街を歩く。ぼうっとしていて近くまで来てやっと気付いたが、降りたシャッターの1つに背の高いサングラスの男が凭れていた。

「あ!ミンゴお迎えか?助かった―」

短い金髪に派手なコートも、動かないでじっとしていれば深夜の闇に紛れるらしい。

「まあな」

無表情にシャッターから背を離し、こちらに近づいてくる。派手なサングラスに2m近くある身長で威圧感が物凄い。コイツを設計したやつはプロトタイプ組むのに苦労したに違いない。

「そうかごめんな遅くなって!xxxワイン飲まされたんだ、なぁ今度バラさせてくれよ」
「フッフッフ、断る」

お前元に戻せねェだろ、と俺に言っているけど目は背負われたxxxの方を見てる。
ほぼ意識のない眠そうなxxxをそっと降ろせば、その腰を慣れた手付きで攫うように、片手で自身の胸板に抱き上げた。

「ダメだ」

俺に向かってもう一度何かを断り、首に掛かる機械音痴の主人の前髪へ満足そうに頬を寄せた。ただプログラムが持ち主を認識しただけでなく、サングラスの奥が雄弁に何かを語った気がした。
パソコンに感情は無い。プログラムに従って動くマネキンだ。
でもあれは、まるで一対の、欲だ。




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