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四年目の功労

よくある話。
両親をAKUMAに殺されて、教団へと入団。両親を殺したAKUMAに復讐をしたいが、イノセンスに選ばれなかったからエクソシストのサポートをする。

私の入団一年目。生き抜くことに全神経を注いだ。AKUMAへの復讐よりも、死ぬことに怯えてた。

入団二年目。私の野望は、少しでもエクソシストの役に立って、AKUMAをたくさん破壊してもらうことになった。死ぬ事は、もちろん怖かった。

入団三年目。余裕が生まれたのか、殺伐とした戦場の中で、奇怪なことを探すために世界を歩き回ることに知的好奇心を覚えるようになった。代わりに、それまで大事にしてきた色恋沙汰にさっぱり興味がなくなった。私は一つが大事になると他への興味が全て消えるタイプらしい。

入団四年目。自分の探索部隊としての役目を誇りに思い始めたとき、そもそもの自分の立場を思い知らされた。

「お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ。」

私が入団の時に絶望した、エクソシストとして貢献できないという事実。

「お前一人分の命くらい、いくらでも代わりはいる。」

イノセンスに選ばれた者と選ばれなかった者の命の価値の差。
私のこの戦争での役割も、彼の役割もどちらも大切だとわかっているけど、明らかに重要度は彼の役割の方が大きい。手の届くような代物ではないとわかっているけど、自分の役割へ感じ始めていた誇りがほんの少し削られて羨望へと変わった。

「ただの雲の上の人だわ。」

神田様が寄り付くことのない談話室で、仲間の探索部隊が、今日の神田様の行動に対する不満を語っていて、私にも意見を求めた時、私はそう答えた。
私は神田様に対してそれほど不満があるわけではない。神田様は実力があるし、言葉は悪いが事実しか言わない。貴重なエクソシスト様で、私には到底できないことを成し遂げる、選ばれた人。さらに美形だから私にとって彼は本当に雲の上の人だった。名前に神なんでついているから尚更だ。本人は神なんて信じていなさそうにしているけれど。

「不満とかないのか?」

仲間の探索部隊が問う。

「全く。私は実力主義だから。」

私はこんな愚痴大会より、明日出発する探索場所で何が見つけられるかが楽しみでそちらへ思いを馳せながら答えた。
実は明日からアジア支部へと向かい、そこを拠点に探索を始めるのだ。そう希望を出した。仲間にはしばらく長期で探索に行くとだけ伝えていた。長期の探索はしばしばあることだから、みんな気に留めないとわかっていてのことだ。しめっぽい別れも、改めてする別れの挨拶も、あまり自分に似合わないと思っているからそうした。

「さ、そろそろ休みましょう。私は明日出発だし。」

その言葉で愚痴大会はお開きとなる。出発前夜にこんな明るくない話をするテーブルに参加したのは少し失敗したと思った。明日の朝は別の仲間のところで明るい話をしようと決めておく。

私はとりあえず気持ちを切り替えて、自分の部屋へと向かった。

「なまえ・ナマエ。」

後ろから声をかけられたのは、私が自室へと入る直前のことだった。
振り返るとそこには神田様がいた。まさか名前を呼ばれる、というより知られているとは思わず私は驚いた。

「こんばんは、神田様。」

私はとりあえず挨拶をした。今まで話したことすらなかった人物との突然の会話の始まりに私は奇妙さを感じずにはいられない。

「どうなさったんですか。」

私はとりあえず、声をかけられたことに対する疑問を投げかけてみる。神田様は私の質問に少し沈黙した。

「・・・アジア支部に行くと聞いた。」

私は目を見開いた。名前はおろか、そこまで知っているとは。わざわざ室長に聞かないと知り得ない情報だ。

「はい。」

私は警戒で声を固くする。急なことに相手がエクソシスト様という雲の上の人物だという事実はすり抜けていた。単純に、ストーカーか何かかと推測していた。

「ここでは探索部隊はパタパタ死んでくが、お前は女にも関わらず四年間生きてたからな、少し気になってただけだ。」

女にも関わらずというところが引っかかったけれど、神田様からのこの言葉、ある程度褒め言葉に当たるのだろう。

「気にかけていただきありがとうございます。」

神田様にお礼をいうと神田様は私の方へさらに近づいた。
何をする気だと思ったら、顎を掴まれた。神田様と顔の距離がさらに近づいた。

「キス、していいか。」

なにがどうしてこうなったのかはわからない。初めて会話した日にキスなんて相手は一体なにを考えているのだろう。相手はエクソシスト様だし、こんな美形からのキスは滅多に受けられないので受けることにしたけれど。

キスはただ一度触れるだけだった。この人意外と初心なのか、と考えたところで神田様が18歳なのを思い出す。戦争の最中で18歳であればもちろん恋愛などしてる場合ではないはずだ。もしかしたらこのキスだって初めてなのかもしれない。

私はただただ沈黙し神田様を観察した。私にキスをした男の顔はどこまでも無表情だった。

「・・・淡々としてるな。」

「美形からのキスですけど、恋愛感情があるわけではないので。」

神田様はそれが気に食わなかったのか、眉間にしわを寄せた。この人は、何を期待していただろう。
私はしれっと無視をして部屋へと入る。

「出発前夜に美形から良いものをいただけました。ありがとうございます。」

おやすみなさい。私はそう言ってドアを閉めた。






アジア支部へと到着したのち、ペンフレンドならぬ、ゴーレムフレンドができた。
結局、神田様の意図はよくわからない。

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