Short | ナノ


理由がないとだめなんです

「ねぇ、神田〜?」


コンコン、と控えめな音と、なまえの声が聞こえた。

どうしたんだと思いながらもドアを開ければ、驚くほどドアップになまえの顔が目の前に移った。

ぎょっとして一歩身を引く。なまえは満面の笑みで、俺にはその笑みがただ嬉しくて笑っているだけにも見えたし、何かを企んでいるようにも見えた。


「どうした。」


そう聞いてみればなまえは効果音つきで、何かの容器を出した。

藍色の円柱型の容器で、いったいなんだこれはと心の中で思っていると。


「これね、肌に塗るやつ。さっきたまたま婦長にもらって。こないだ神田の肌、ちょっとかさかさしてたから、ちょうどいいかなって。」


迷惑かな、と申し訳なさそうに笑うなまえ。

俺はとんでもないといわんばかりにその円柱形の容器のふたを開けた。

真っ白いクリームの入ったそれは容器ぎりぎりまでたっぷりと入っている。人差し指で少量それを指に掬い頬につければ、少しひやりとしたがかまわず塗る。なるほどこれはなかなかいい。そのままなまえの目の前で片頬にそのクリームを塗った。

そんな俺の様子をなまえは、じっと見つめそしてぽつりと一言。


「・・・・なんでこんなに絵になるのかな・・・」


おそらくこれは心の声だったのだろうが、それは音として空気を振動させ俺の鼓膜を震わせた。

俺はそのままその言葉を褒め言葉として無視して、片頬にそのクリームを綺麗に塗った。


「どう?」


不安そうにこちらを覗き込むなまえ。身長差から上目遣いとなっており、心の奥底がくすぐられたような気分になる。

一瞬間をおいて、「ああ」という肯定の意思とともにうなずけば、なまえの表情はパァッと明るくなった。


「あ〜よかった。気に入ってくれて。」


ほっと、安堵したような笑顔で笑いかけるなまえ。


「使わせてもらう。」


自分なりの感謝の言葉を述べて俺はもう一方の頬にクリームをつけようとまた手をクリームに伸ばした。

が。


「あーっまって!」


急にがしりとクリームにつけようとした手をつかまれる。

いったいどうしたといわんばかりになまえを見れば彼女は何かをたくらんだような目でにこにこと笑いながらこういった。


「もう片方はあたしがつけるから!」


「・・・・・」


俺は何とか、「は?」というのをこらえた。どうしてそういう流れになるのか分からなかった。


「一回、神田のほっぺたに触ってみたかったの!」


きらきらと目を輝かせてこちらをみるなまえ。そんな目を見てはこちらもだめとは言うことはできず、すでにクリームを指に掬っていたなまえに無言で少し背をかがめた。

またひやりとした温度が頬に触れた。しかし今度はゆっくりとそして確かめるように、気遣うように。なまえは「おぉ・・・」と声を漏らしながらクリームを塗っていった。

見詰め合うのもなんだと思い、ゆっくり目を閉じる。

なまえはもうすでに頬のほうに意識を集中させ一生懸命俺の頬にクリームを塗っていた。頬に触れる温度がだんだんと温くなり、なまえの体温になる。その温度を心地よく思っていると、ふとなまえの頬を滑っていた手が止まった。


「・・・・?どうした。」


目を瞑ったまま聞いてみる。なにも答えようとする様子がないのでうっすらと目を開ければそこにはほんのりと頬を赤くしたなまえがいた。


「なんだ急に。」


眉をひそめて見せればあわててなまえは答えた。


「いやあ〜、気づいたら、ちょっと近いなって思って・・・」


それでその、恥ずかしいな〜、とか思って・・・・

だんだんと尻すぼみになっていくその姿を心の中で俺はかわいい、と思っていた。

ふっ、と思わず笑みを漏らせば、「あれ?」と首をかしげるなまえ。

俺はそんななまえの頭にただ手を乗せた。






距離を縮めたくて、嘘をついて贈り物。


(・・・というわけでー、これからじりじりとユウとなまえの気持ちが通じ合ってくんさ。)


(ほんと、二人はじれったかったわね。)


(も、もう話すのやめて・・・!!)


(勝手に人の思い出はなしてんじゃねぇよ。)


(そういっている割には、怒ってませんねぇ、あの短気なバ神田が。)


(あぁ゛?なんだとクソモヤシ)

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