Short | ナノ


ある日のデート

・・・・少し風が冷たいな。

私は片手に音楽プレイヤーを握ってある曲を聴いていた。

イヤホンからつたわる優しい曲に目を閉じて公園のベンチに腰掛けている私。

手が段々とかじかんできて冷たくなってきたのでポケットに手を突っ込む。

幾分かはましになったもののやはりポケットのなかには外気の冷たさが布越しに伝わって少し冷たい。

一度手を出してほう、と息を吐きすばやくポケットに突っ込む。その繰り返しをしていた。


「・・・・遅いな。」


思わずそんな言葉が漏れるほど彼は遅かった。




今日は久々のデートの日だった。

最近は勉強とかいろいろ忙しいので会う暇がなかったため電話やメールのやり取りしかできなかったが今日、やっと時間が取れたのだ。

しかし、待ち合わせから30分たっても私の彼氏―――神田はこない。

今日は確か何もかも休みだと聞いていたのに一向に来る気配すらなく、私は寒空のしたずっと彼を待っていた。

何度も何度も同じ曲がリピートされていく。

もうこの曲を繰り返して何回目だろう。もう数えるのを忘れてしまうほど繰り返されているので、あーあ、とため息をついた。


そんなときだった。

息を切らしながら彼は現れた。


「悪い、遅れた。」


と、神田。息を切らしているところをはじめてみてなんでも絵になるんだなとちょっぴりきゅんとした。


「とりあえず、座ったら?」


ベンチにはたっぷり余裕があるので隣を進める。

神田は「寒いだろ。」とわざわざ言って、私とピタリとくっつくように座った。

中々温かい。本気で走ってきたんだと思うと時間が遅れはしたが嬉しかった。


「・・・寒いね。」


ほう、と息を吐き出しながらぽつりとつぶやいてみる。

どうして遅れたのかは分からなかったが、特に気になったわけではなかったので「なんで」と、理由は聞かなかった。


「そろそろ、行こっか。」


なので私は独り言のようにそういって立ち上がる。

すると神田も立ち上がって二人で歩き出した。

今日は実は付き合いだして一年目の記念日だった。

だから二人で記念のための何かを買おうという話に電話でなって。

今此処にいたっているわけである。


「何買う?」


そう、私は神田に聞いてみる。


「お前の好きなものなら何でもいい。」


しかし神田はあまり買い物など分からないようで少し投げやりだ。

まあいっか、と思いながら私は冗談で、


「なら、へんなの買ってもいいってことだよね。」


「・・・・常識の範囲内で頼む。」


そんな神田の言葉に私はくすりと笑った。







「あ、これ神田に似合いそう。」


そういって手に取ったのは神田のよく消費する髪紐である。

学校ではアレンやラビに切れまくっていて特にアレンとはケンカが多くてけんかしている間に髪紐がなくなったりするのだ。

もっとも、それは神田のファンクラブの子たちが落ちた髪紐をケンカしている間にこっそり取っていくからなのだけれど。

そのためこの間神田が「髪紐が足りねぇ」と愚痴をこぼしていたのでこれを神田に買うのはどうだろうと思うのだが。


「これどう?」


そういいながら神田に髪紐を渡す。

神田がいつも使っているような真紅の髪紐だけれど一本だけ、白色が混じっていて両端には3センチくらいのふさふさがあった。


「神田に似合うと思う。これ、おそろいで買わない?」


そう問いかけてみると神田は、


「・・・いいのか?」


こんなものでいいのかというような表情でこちらをみた。

私は肯定の意味も込めて


「今度結び方教えてね。」


と、笑顔でそういった。

神田も小さく笑った。








(髪紐、大切にする。)


(こればっかりはファンクラブの子にとられないように気をつけてね。)


(なんだ、やきもちか?)


(ち、ちがうよ。)


(馬鹿だな。)


(なっ、ばかって・・・)


(可愛いってことだ。)


ちゅっ


(っっっ・・・・!ば、ばかっ。)

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