Short | ナノ


ふわりそしてじわじわと





「どうせ、最後はみんな死んじゃうんだよ。」


と、なまえは言った。

教団の静かな森の中。俺も、なまえも木漏れ日で体が斑模様になっている。

葉と葉の間にかすかに見える青い空を見上げながらなまえは淡々と言った。


「あたしたちが死ぬのは、この戦争のせいじゃない。生まれながらにカミサマに与えられた運命なんだ。」


カミサマを信じない俺とは正反対のなまえの考えは俺には到底理解することはできなかった。

俺はそんななまえの話をただ聞いていた。


「だからあたしは死ぬことは怖くない。」


その言葉は生死をさまよう状況に陥りやすいなまえだからこそいえる言葉だった。

そう断言したなまえの肌はいつも青白いが今日は調子がいいのか少し頬に朱がかかっている。

彼女は、イノセンスに選ばれてしまった、病弱な神の使徒なのだ。


イノセンスの適合者と分かったときなまえをつれてきたのは俺だった。

病弱だと知っていた。なのに俺はなまえの身を戦場に連れて行った。まるで死に急がせるように。


俺はなまえを連れてきたことをずっと後悔し続けている。


病弱で中々戦場に赴くことのできないなまえは中央庁の連中にとってはお荷物だった。

イノセンスの使徒でありがなら、AKUMAを倒しに行くことすら難しいなまえは教団内での風当たりは悪い。

一部ファインダーからは陰口を言われている。

もしかするとなまえが死んでもいいといっているのは俺がつれてきたせいなのかも知れないのだ。


「・・・・・・悪い。」


無意識にも近いように俺は口を開いていた。

なまえがこちらを見る。

その瞳はどこか悲しそうで眉尻が下がっていた。


「・・・それ、どういう意味。」


すべて分かっているだろうにあえて訊いてくるなまえに俺はうつむいた。

答えることはできなかった。

俺のせいで死んでもいいと言ったとは、なまえに認めてもらいたくなかった。


「・・・・別に神田のせいじゃないよ。」


なまえは答えない俺に一つ息をつき、話し始めた。


「イノセンスに選ばれなくても死んでもいいって思ってた。
生まれてきてから何度も生死の境さまよってたし。」


「だが、」


「だが、じゃないよ。神田があたしをつれてきたのは任務だし、それにあたしがイノセンスに選ばれたのは生まれながらにカミサマから与えられた運命。
とにかく、神田のせいじゃないよ。」


分かった?といわれ俺は「・・・・ああ」と仕方なく返した。それから「だが、」と続ける。


「こんなところへ連れてきてしまったという事実は消えない。
・・・だから、苦しいときは、ちゃんと頼れ。」


俺のせいじゃない、となまえは思っていても、それでも自分の中にある後悔と罪悪感は拭いきれるものではなかった。


「分かってるよ。」


そう答えてくれたなまえに安堵しながら一つ息をついた。


と。


「神田。」


不意に、名を呼ばれた。


「なんだ。」


俺はただ応える。

なんとなくなまえのほうへ向けばなまえもこちらを向いていて、目が合った瞬間笑みを向けてきた。


「っ。」


驚いた。なまえの笑顔はいつもどこか寂しげなものしか見たことがなかった。

どこか嬉しそうに優しく笑みを見せたなまえなど一度も見たことがなかったのだ。


「神田って、意外と優しいね。」


微笑みを浮かべたままなまえが言う。俺は不覚にも動揺した。


「っ、別に俺は、」


反射的に反論しようとして、言葉をさえぎられる。


「優しいよ。」


「っっっっ!!!」


優しいと強く言うなまえの表情は今まで感じたことがないほど幸せでそして美しくもあった。



どうやら一瞬にして俺はなまえにやられたらしい。


心臓はどくどくとうるさいほど早鐘を打ち、じわじわと自分の体温は上昇していた。







君が幸せそうに笑うたび、どんどん好きが膨らんでいく



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