02
「王様、朝ですよ。」
「・・・・・眠い。」
「ふふ、おはようございます。」
そういって、なまえは夫である神田ユウを起こした。
彼女はこの国の王妃だった。そして夫である神田はこの国の王だ。
・・・・・・・暴君と、呼ばれているが。
髪の毛がさらさらで美しい顔立ちをしている王は寝ぼけた様子で眉間にしわを寄せていた。
まだ、朝の五時だが王はいつもこの時間帯に起きている。もちろん王妃もこの時間に起きる。
王は自分の体を常日頃から鍛えていた。城の者たちには内緒で。
いつ襲われてもおかしくないから、というのが彼の言い分であるが、王妃として一番そばで使えてきた王妃には分かる。
自分を守るために鍛えているのだと。
自惚れかもしれない、とは思わなくも無いが王妃はそう思っていた。
だから王妃は王の体を鍛える手伝いをしている。
そばで休憩するときにふかふかのタオルを用意したり、のどが渇いたときのためにとコップ一杯の水を用意したり。
王妃は献身的に王を支えた。
王は、それが当たり前かのように振舞うが内心王妃に感謝していた。
王が剣を振るう姿や、その真剣な漆黒の瞳に、王妃はいつもため息が出そうなほど見惚れた。
無愛想で暴君と呼ばれる王だが、彼女は王を愛していた。もちろん、王も彼女を愛していた。
「王様、もうそろそろ時間ですよ。」
朝五時から一時間が体を鍛えることのできるタイムリミットだ。
それくらいを過ぎると下女たちがおきて準備をし始めるからだ。
「・・・あぁ、帰るぞ。」
「はい。」
一時間、体を鍛えたあと彼らは寝室に戻った。
そしてそれから支度をし、七時になると王は政治を行うため玉座の間に、王妃は城下町を歩きにいった。
王妃は城下町を歩いてまわるのが日課だった。
国の民の声をじかに聞き、王に民の声を届けるためだ。
彼女が二番目に愛していたのは国民だ。
「おうひさま!」
「あら、どうしたの?」
「このオレンジ、おかあさんがおうひさまにって。」
「綺麗なオレンジ。おいしそう、あとでいただくわね。」
「うん!」
城下町では、民全員が王妃を祝福した。王がなんと呼ばれようが王妃の人気は絶大だった。
彼女が歩けば皆が王妃さまとこえをかける。
そして彼女は一人ひとりと目を合わせ手を振るのだ。
そんなとき、ある一人の子供が王妃に駆け寄ってきた。
「ねえおうひさま!!」
元気そうにこちらにかけてきた子供は、王妃に摘んできたという花を少し泥のついた手で渡した。
「どうしたの?」
王妃はその花を受け取りながらしゃがんで子供と目線を合わせた。
子供は屈託の無い笑顔で王妃に訊いた。
「おうひさまは、どうしておうさまとけっこんしたの?」
と。
その元気な声が響くと同時に、ピタリ。大人たちが話をやめ耳をそばだてた。
ずっと民たちが知りたくても知れなかったことであった。
なぜ、王妃は暴君と呼ばれる王と・・・・自分と正反対の男と結婚したのか。
王妃は子供ににこりと柔らかい笑みを浮かべて答えた。
「結婚というのはね、相手のことが好きじゃないとできないことなのよ。」
「じゃあおうひさまは、おうさまがすきなの?」
「ええ、愛しているわ。」
「えー!?なんでー?だっておうさまは"ぼーくん"ってよばれてるんでしょ?」
どこからか、馬鹿野郎、という子供をしかる声がかすかに聞こえた。
周りの民たちが子供を心配そうに見つめる。
いくら王妃が優しいとはいえ、この言葉が王に伝われば子供やその家族がどうなるか分からないからだ。
けれどそんな心配と植えつけられた先入観は、王妃の次の言葉で無くなった。
「そうね・・・・だけど、王様はあなたになにか酷いことをした?」
その言葉で民たちはずっと大きな勘違いをしていたということを思い知らされた。
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