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高嶺の花

いつも、窓の外見てる。授業中にふと彼女を見るといつもそうだった。全く授業を聞いている風ではない。

俺と偶然同じクラスになったナマエさんは帰国子女で、ハーフでもある。顔立ちが整っていて、色白で綺麗な顔をしている。

密かに彼女に想いを寄せている男子は少なくはない。

俺は、想いを寄せるとかそんなんじゃなくて、彼女のことを心配していた。帰国子女で、さらにハーフ。完全にクラスから浮いてしまっている彼女はいつも一人だった。大人しそうな、引っ込み思案そうな顔をしていてそのせいで一人なのかなとか、ついつい気にかけていた。

笑ったところを見たところがない、というのも俺の心配の一つだ。

一人の彼女は今まで一度も教室内で笑ったことがない。誰かと一緒にいれば笑うことができるけれど一人だと何もないからだ。
あと、よく本を読んでいる。しかも英語の。そういうところをみると、自分と違う言語を扱ってるんだなって余計に遠くなる。

誰も近づくことを許さない、独特のオーラもまとっていて、そこも高嶺の花たりえる所以だ。


遠くから見ていたら、なんとなく真ちゃんの発する気配に似ている気がした。
だからかもしれない。彼女が心配だったのは。俺が真ちゃんと初めて出会った時を思い出させるから。


「なあ、真ちゃん。」


俺は昼休みに真ちゃんと弁当を食いながら、ナマエさんのことを話題にしてみた。


「何なのだよ高尾。」


「ナマエさんって知ってる?」


「ナマエなまえか。」


「そうそう。」


どうやら真ちゃんも知っているらしい。人に興味はないと思っていたが認識違いだったようだ。


「何度か喋った。」


「は!?マジで!?」


「何なのだよ、何がおかしい。」


「いや、別に・・・」


しかし、真ちゃんとナマエさんは予想以上で。ちょっとだけがっくし。


「でさ、何喋ったの。」


「ナマエもスリーポイントシュートが打てるらしく、それについて少し話しただけだ。」


「じゃあナマエさんはバスケしてんの。」


「そうらしい。」


へー、と相槌を打ちながら俺は内心むっとしていた。俺だってバスケしてるんですけど。なぜに真ちゃんだけ?たしかに真ちゃんがスリー打てるけども。


「で、ほかには?」


「いや、特にはない。」


「あっそう。」


「もう俺は行くのだよ。ほかに聞いておきたいことはあるか。」


「いんや、もうない。」


真ちゃんはご飯を食べ終え、ごちそうさまと手を合わせるとどっかいった。今日ばかりはあのツンデレな態度がもやっとした。俺のほうが話しかけやすそうなはずなのに、あのツンデレで近寄りがたい雰囲気持つ真ちゃんのほうに話しかけるって・・・なんだか負けた気分だ。


でも、ナマエさんにも話しかけられる相手がいて良かったと、父親のような安堵感が広がった。



それから数日経って事件が起きた。

俺はあんまり心配する必要はなかったなあと不貞腐れながら、鷹の目を使って真ちゃんとナマエさんが話している様子を見ていた。(これ一歩間違えたらストーカーじゃね?ま、やめねーけど。)

ぼーっと、たかーい場所から見物していたわけだけれど。

―――え。


「っっ!!!」


俺は椅子からひっくり返るかと思った。


「(こんなことありえんのかよ・・・!!)」


動揺が隠しきれず、丁度その時チャイムがなったけれども耳に入らなかった。





その日の昼休み。


「―――あの、」


今、ナマエさんが俺の目の前にいる。
さっきまで彼女の保護者的立場にたとうとしていたのを忘れ、俺は一青年として心臓をばこばこ鳴らした。
白い肌。ちょっとそばかすの浮かぶ目のちょい下。色素の薄い瞳。ぱっちり二重で上目遣い。綺麗と可愛いを両方兼ね備えた顔だ。


「えええっと、何?」


「さっきの休み時間、何だけど・・・」


独特なイントネーションで単刀直入に聞かれたその質問は、俺を固まらせるには十分だった。


「"見てた"のは、高尾くんだよね・・・?」


名前のことも、聞かれた内容も、全部びっくりだった。俺の名前を知っているとは思わなかったし、明らかに俺の持ってる能力知ってる口ぶりで(でも真ちゃんが話したかな)、全部お見通しですよみたいな透き通った目から逃れたい気分になった。

しかし結局はその瞳から逃れられそうもないので。


「・・・うん、ごめん。」


正直に謝った。

その瞬間、あー、俺絶対嫌われたなと絶望が心を取り囲んだ気がした。こんなストーカー紛いの行為、気持ち悪いに決まってる。次来るのは彼女のドン引きの声か?恐怖の声か?

俺一生彼女に近づけねーかも、せっかく喋れたのにこれが最後かな。

そうやって身構えた俺だったが。


「あの、そうじゃなくて、ああいうの初めてでわくわくしたっていうか。」


「え。」


「お、おかしいかな私。それに、高尾くんからしたらそうじゃないのかなって思ったりしたんだけど。でもどうしても確かめたくて。」


一瞬だけ理解が遅れた。


「"見てた"時、私と目、あったよね?」


俺はひと呼吸おいて、きちんと彼女の言葉の意味を飲み込んでからうなずいた。


「やっぱり・・・!」


口元を抑えて控えめに喜ぶナマエさん。俺は見惚れながら、嫌われたわけではないことに安堵した。


「嬉しい・・・!!」


「!!」


ナマエさんは喜びの勢いのまま俺の両手を掴んでブンブンと握手した。
興奮するとはつらつな子なんだなあと意外な一面をひとつ発見。


「今度、どうやって"見た"のか教えて・・・!」


「お、おおう。」


やったあ、と小さくつぶやいて彼女は握った手の力をきゅっと強めた。


「じゃあ、よろしくね。」


丁度チャイムがなって彼女は小走りに去っていった。

いきなりのことが連続して何がなんだかわからなかったけれど、彼女の手のひらの小ささと、花のような笑みだけはしっかりと刻みこまれていた。


ドッドッドッ、と耳の奥が煩い。胸に手を当てたら、心臓が飛び出しそうだった。

体全体がほてってしかたがない。


「なんてこった、こりゃーもう完全に・・・」


想いを寄せてないなんて、誰がいった馬鹿タレ。


かんっぜんに惚れちゃってるじゃん。





威力はんぱねぇわ、あの子。




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