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とめらんない

「んっ・・・」


色っぽい声が脳内に響く。なんかその声にどうしようもなくきゅんとときめいて、胸がぎゅっと締め付けられた。かわいい、かわいすぎるそれ。

しばらくやわらかい唇を堪能してなまえちゃんの息が持たなくなったころに唇を離す。

至近距離でお互いの息を互いに送り込んでいるみたいだった。離した唇は触れるか触れないかくらいのぎりぎりのところで、お互い少しだけ口をあけていたからお互いの呼気吸っていることになるんだろうか、これは。なまえちゃんのすべてを自分のものにしたい俺にとってはとてもいいシチュエーションだと思う。

彼女の息が整う。伏し目がちの瞼が一度閉じられて、ゆっくりあけられた。ほんの少しだけまつげにしずくがのっていてきらきらしてた。


「ね、ちょっと待って。ちょっと苦しい。」


ちょっと待っての「待って」は彼女なりの「離れて」の意味だ。


「でも、息は整えたよね。」


「息じゃなくて、あの、ここ。」


そういって彼女は自分の胸に手を当てる。胸がドキドキしてるんだよね。だから苦しいってことなんだよね。さっきまで体密着してたから十分わかる。

中学校一年生までずっと外国に住んでいた彼女は日本語が少し不得意だ。すぐには単語が出てこなくてこそあど言葉で表現することが多い。聞き取ったり、相手の言葉は理解できるらしいけれど自分で表現するのは難しいようだ。そのたどたどしい感じがまたかわいいから俺は彼女の言葉をいくらでも待ってられるけど、彼女はそれがコンプレックスらしい。


「胸が苦しいのは俺知ってる。さっきまで体くっついてたし。それ以外に苦しいところは?」


「胸以外はない・・・」


こうやって俺が単語を出して言ってあげると彼女はすぐに理解できる。そのくらい頭がいい子なのだ。


「じゃあ、このままでいい?」


俺がそういうとやさしいから、断る理由がないからうなずいてくれる。そこに付け入る俺はずるがしこい卑怯者だ。


「た、高尾くん・・・」


「ん、何?」


彼女が不意に額を俺の胸に押し付けた。俺の服をぎゅっとつかんで、耳まで真っ赤にしている。どうしたんだろうと思いながらやさしく聞いてみれば、彼女はたどたどしく言った。


「あの、あのね、好き、だよ。苦しいけど、本当は苦しくてもいいっていうか・・・この苦しいの本当には苦しくないっていうか・・・
・・・・やっぱり、日本語って難しい・・・・」


ううう、と小さくうなる彼女。ああもうなんでそんなうれしいことを言ってくれるんだろう。もう、ほんとうれしい。俺は赤いであろう彼女の顔を見るためにそっと彼女を俺の胸から引き剥がした。

予想通り顔が赤い。りんごちゃんみたい。


「俺も、なまえちゃんが好きだよ。」


俺は赤い唇に口付けた。


「っ・・・・」


彼女はキスになれていなくて息を止める。前に一度鼻で息するのを教えたけれどなかなか難しいらしい。そういうちょっと不器用なところもかわいいから好きだ。

彼女が俺の腕をつかむ。俺はその手を背中に回させて、自分も彼女の背中に手を回した。お互いの体が密着する。このまんま同化してずっと一緒になれたら、それはそれでいいかもしれない。

唇を離す。彼女が空気を食べるみたいに荒い息を繰り返す。俺の背中に回した腕を強めて潤んだ瞳で俺を見上げた。


「高尾くん、高尾くん・・・」


何かいいたそうだけど、でも言葉が見つからないのか。彼女は眉を下げて困ったような顔をする。


「どした?」


俺は彼女から単語が出てくるのを待った。


「もっと、キスしてほしい・・・」


俺は目を見開かせて驚いた。彼女からこんなこと言ってくれるなんてめったにない。

それじゃあ何かいいたそうにしていてでもいえなかったのは言葉が見つからなかったわけじゃなくて恥ずかしかったからか。

言い終えてから彼女はこれ以上ないってくらいに顔を赤くさせている。もともと色白だったから赤がとても目立つ。

潤んだ瞳も真っ赤な顔も、恥ずかしそうに伏せるまぶたも、全部愛おしい。

ああもうだめ。そんな風に言われたら俺、とまんないって。


「もう、ほんと、なまえちゃん・・・」


大好きと口に出す前に俺は、伏せられたまぶたにキスした。両方。それから鼻にキスをして、そしてなまえちゃんが一番してほしい唇にした。完全に触れ合った瞬間から、吸い付くようにお互いの唇がくっついていく。
もっと、もっとというように唇を離してはまた口付け、角度を変えてはまた口づけ、と繰り返す。彼女からも求めるように唇が寄せられて、普段はこんなことあまりないから余計うれしくて幸せで。

ただでさえ、いろいろとやばいのに、彼女が全部受け入れてくれると、自分をぜんぜんコントロールできない。


「なまえちゃん・・・なまえちゃん・・・」


うわ言のように繰り返す。もうホント大好き。あんまり大好きっていうと薄っぺらくなるから言わないけど。いっつもなまえちゃんしか考えらんないくらい大好きだかんね。


「高尾くん、」


なまえちゃんが最後に自分からキスをして、俺の驚いた顔を見て少しだけいたずらっぽく笑った。
そんな風に純粋に愛を向けてくれる彼女の顔は、本当に、本当に綺麗で。愛おしくて。
俺は思いっきり彼女を抱きしめた。





(今俺、超幸せ。)

(高尾くん、私もだよ。大好きな高尾くんがいっしょにいてくれてるだけでも幸せ。)

(あーもう、そんな可愛いこと言わないでよ。俺、今度は襲っちゃうよ?)

(わたし、高尾くんだったらなんでもいいよ。)

(何されてもいいってこと?)

(あ、うん。そういうこと。やっぱり日本語って難しい・・・)

(そういうとこ、俺好きだぜー。)




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